3.5

私は"バイト"のことで刻を呼び出していた。
まぁ言うなればお説教を聞かせるためなのだが…。
とはいえ私のお説教など刻には糠に釘。
刻はひとしきり私のお説教を聞き流してあくびを一つ。
注文したチョコレートケーキにフォークを刺す。
そして何事もなかったように言った。
「ナァ…平家センパイ」
「何です?」
「サキちゃん好きな奴できたんだってサ」
私は一瞬動揺した。
「…どうしてそれを私に言うんです?」
「んー…やっぱガキん頃から世話してる平家センパイとしては気になっちゃうんじゃねぇノ?と思ってサ」
「貴方はどうしてそれを?」
「こないだサキちゃんと買い物行った時に言ってたんだヨネ、年上の相手に恋しちゃったってサ」
「それはそれは…どんな相手でしょうね」
「やっぱ気になっちゃう?」
刻は身を乗り出して楽しそうに言う。
「彼女が誰を好きになろうと、彼女の自由じゃありませんか」
「ちぇ、つまんねぇノ…もっとこう…焦るか動揺するかと思ったのに」
まるで私を娘を持つの父親みたいに言う。
「どうしてそう思うのです?」
「だってサキちゃんかわいいジャン?」
「貴方がその気なら付き合ってくださいと告白すれば良いのでは?」
「あー無理無理、俺が行ってもダメだもん」
「どうしてです?」
「やっと自覚したみたいだケド、サキちゃんのかわいさって恋するオンナノコのそれだゼ?」
「だから?」
「俺なんか端っから眼中にねぇってコトですヨ」
手をひらひらとさせながら少しいじけたように言う。
「じゃあ君は彼女に好きな相手がいなければ告白していたんですか?」
「かもネ…恋してるとか関係なくてもサキちゃんはかわいいからネ」
おやおや、刻がそんな風に思っていたとは。
「良かったですね、告白しなくて…彼女と付き合うならまず私を倒さなければ交際など認めませんから」
「ヒャッハッハッ!俺でも無理なのにパンピーがセンパイに勝つとか無理っショ!」
ツボに入ったようでゲラゲラと笑いながらテーブルを叩く。
お行儀の悪い子は減点対象ですね。
「なぁ…センパイはどうなんだヨ?」
「何がです?」
「サキちゃんどう思ってんノ?」
「…まだまだ子供ですよ」
「ホントに?それダケ?」
「それ以上の何があると?」
ピシャリと言い放てば刻君もそれ以上は何も言わなかった。
刻君はすっかりぬるくなったコーヒーに手を付ける。
私もぬるい紅茶を流し込んだ。
「サキちゃんはサ…」
「はい?」
「幸せになれると良いナ」
「無理でしょうね、あの子は本来ならエースナンバーにいてもおかしくないだけの異能の持ち主ですから」
「…そうなのかヨ?」
「異能のコントロールに多少難があるのですよ、だからCODE:BREAKERには推薦しなかったんです」
本当はウソだ。
異能のコントロールは確かに良くはない。
だがそれはあくまで『私を基準とした場合』での話だからだ。
例えば射的をするのに私は標的の十点のみを正確に突ける。
それが彼女の場合少しズレ、八点や九点が多くなる。
これが普通の人間の基準なら、標的の輪の中を突けているので良いじゃないかと言うレベルの話だ。
そして私がそれ以上に問題だと思うのは彼女のメンタル面だ。
あの子はきっと私のために無理をするだろう。
それが私には耐えられない。
「平家センパイってサ…」
「はい?」
「サキちゃんには過保護だよナ」
「貴方や寧々音と違って彼女は独りきりですからね」
そう、彼女には私しかいないのだから…。
「ホントにそれだけかヨ?」
「それだけですよ、それ以上何があると言うんです?」
そう言って私は話題を打ち切る。
私が伝票を持って立ち上がると、刻はタバコに火を点けた。

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