昔の話2

私は理想郷に連れて行き皆に引き合わせた。
その際に私は桜小路女史に華子を預けようとした。
曲者揃いの理想郷の中でもエンペラーやゼドに華子を任せるなど言語道断。
それに十に満たないと言えど華子は女の子だ。
これから成長していけば女性同士でなければ話しにくいこともあるだろうと桜小路女史に頼んだのだが…。
「貴方が連れて来た子なんだから、貴方が最後まで面倒みなさい」
とすげなく断られてしまった。
当の華子はと言うと、私との同居を承諾してくれた。
「これからよろしくお願いしますね、華子さん」
「こちらこそ…お世話になります」
こうして私と華子の同居生活が始まった。
私の家には部屋ならいくらでもあったから、その中の一室を華子に与えた。
家具もなかったからタンスと鏡台を華子に贈った。
他にもいろいろと必要なものがあったけれど、順々に揃えていった。
華子は段々と私と一緒の生活に慣れていった。
華子は手のかからない子供であった。
私は華子に異能の使い方や体術の類も教え込んだ。
華子はなかなか飲み込みが良く、すぐに異能の使い方のコツのようなものを掴んだ。
体術の方はまぁそこそこと言うところだろう、荒事とは無縁の商家の娘にそこまで期待はしていなかった。
体術はじっくり鍛え上げていけば良い。
華子は、いつしか私の生活にもかけがえのない存在になった。
朝、顔を合わせるとおはようございます。
夜、寝る前にはおやすみなさい。
出かける時には行ってらっしゃい。
家に帰るとお帰りなさい。
そんなありふれた日常とは無縁の生活だったから…。
誰かとこうして挨拶を交わすことがこんなに嬉しいことだとは知らなかった。
私は華子が愛おしくて堪らなかった。
あくまでも父性としての愛おしさだったが。
今思えばそれが…いけなかったのかもしれない。
華子は14歳で法超者となり16歳で私の家から出て行った。
独り立ちの年頃だろうと私は止めなかった。
華子がいなくなっただけで、家は火が消えたようになった。
ほどなくだった。
華子に関する悪い噂を聞くようになったのは。
夜な夜な遊び歩いているだとか、毎日連れ立って歩く男が違うだとか。
私は真偽を確かめようと華子を問い質した。
そんなことをさせるために家から出したわけではないのだから。
しかしちょっと会わない間に私には華子がわからなくなってしまった。
「貴方には関係ありません、放っておいてください」
「放っておけるわけないでしょう?」
「法超者の仕事はちゃんとしてます、私生活で何をしようと私の自由でしょう?!」
「貴女も独り立ちの時が来たのかと送り出しましたが…間違いだったようですね」
私は華子の腕を掴んだ。
「離して!触らないで!」
「離しません、いらっしゃい!」
「嫌だ!離せ!離してよ!」
そうして華子は泣き出してしまった。
泣くほどのことをしてしまっただろうか?
私は少し戸惑いながら華子を抱き寄せた。
だが華子は余計暴れて泣き止む気配がなかった。
「離せ…離せバカ野郎…アンタなんか嫌いだ…離せ…」
華子は泣きじゃくりながら私に言う。
「嫌いでも構いません、私は貴女の保護者として貴女の乱れた生活を見過ごせないだけです」
「その保護者面が鬱陶しいんだよ…」
「…華子さん、誰彼構わず寝るのはやめなさい…もっと自分を大切になさい」
「うるさい…」
「良いですか?そういうことは好きな人とだけすれば良いんですよ」
「うるさい…綺麗事言うな…」
「貴女の戦い方もそうです、どうしてそんな風に自分を大事にできないんですか」
私は華子の目を見ようとしたが、華子は俯いていた。
「…くれるのか」
「え…?」
「じゃあアンタは私を抱いてくれるのか?!」
何故そんな話になるのか私にはわからなかった。
「何を…」
「私はもういらないんだろう?私のことなんてどうでも良いんだろう?もう関わらないでよ!」
「どうしてそんな話になるんですか?いつ私が貴女をいらないなどと言ったんです?」
「家を出る時引き止めなかった…」
「貴女も独り立ちする年頃になったのかと思って引き止めなかっただけです、帰ってきたければいつでも帰ってくればいい…そう言ったでしょう?」
「……って…言ったのに…」
「今度は何ですか?」
「良い…忘れて…」
「とにかく…ここ最近の貴女の行動は目に余る…家に帰ってらっしゃい、嫌と言ってもダメですよ」
「嫌だ」
「華子さん…」
どうしたものだろうか、華子は妙に頑固なところがあった。
私が思案していると華子は私の腕から抜け出そうと藻掻いていた。
だが華子が私に力で敵うはずもない。
次第に諦めたように肩を落とす。
「華子さん…帰ってらっしゃい、貴女がいないと家は火が消えたようですよ」
華子を宥めるように背中をポンポンと叩く。
「嫌だ…もう嫌だ…何もかも…なんでそんなに優しいんだよアンタは…」
「…帰りますよ」
私は華子の手を引いて家路についた。
華子はおとなしくついてきた。
夕食は久し振りに華子と一緒だった。
華子は何も言わなかった。
深夜…華子はもう寝たものだと思っていた。
私は寝室のソファで読書に耽っていた。
小さな音を立てて扉が開いた。
「どうかしたんですか?」
「…眠れないから…」
そう言ってソファに腰かける。
華子は沈んだ声で言う。
「眠れないんです…」
「話でもしましょうか?」
「…何を?」
「何でも…貴女の話したいように」
華子は黙り込む。
私は華子の隣に座り直し、彼女の頭を撫でた。
「そうやって子供扱いするんですね」
「貴女はまだ子供ですよ」
「…もう…子供じゃない…」
「子供でしょう?私に構って欲しくてこんなに心配をかけて…子供じゃないならただの駄々っ子…これも子供ですね」
華子は俯いて何も言わない。
「まったく…手のかかる子ほどかわいいと言う意味がわかりましたよ」
「子供扱いするな…」
「いいえ、まだまだ貴女は子供です…ゆっくり大人になれば良いじゃないですか」
「でも…」
「急ぐことはないんですよ…子供でいられる時間は短いのだから…」
「それじゃダメ…ダメなんですよ…」
「どうしてそんなに大人になりたがるんですか?」
「…貴方に…認めて欲しいから…」
「まったく…かわいい理由ですね」
「バカにしないでください!」
「バカになどしていませんよ、かわいいからかわいいと言っただけです」
華子は泣いていた。
私は華子を抱き寄せた。
だが華子は嫌がり離れようと藻掻く。
「優しくしないで…」
「どうしてですか?」
「アンタは本当に残酷な男だ…」
「昼間から貴女はわからないことばかり言う…私が何かしましたか?」
「わかってないなら良い…離してよ」
華子は私から離れようと暴れる。
私は華子を離してやる。
華子は押し黙り、私と目を合わせようとしなかった。
「もう…寝なさい」
「…そうする」
華子は立ち上がり部屋から出て行った。
翌朝華子はもういなかった。

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