▼ 青紫との食堂-02-
ふと自分の定食に目をやれば、いつのまにか横から箸が伸びてきていた。そしてそれは俺の冷奴を今にも掴もうとしていた。
「あっ、兵助!何やってるんだよ!」
不破の他にその場にいた5年生の2人が冷奴を掴もうとしていた箸を止めた。
「え〜………。」
「え〜、じゃない。それ蓮夜さんの豆腐だろ!」
「ハチの言う通りだぞ。まったく、人の分の豆腐にまで手を出すなんて、もう。」
はあ。と呆れながらため息をついたのはボサボサ髪の青年とうどん髪の青年。そのやりとりをじっと見ていると俺の視線に気づい3人は慌て挨拶をしてきた。
「あっ、挨拶が遅れてしまってすみません。俺は5年い組の尾浜勘右衛門です。よろしくお願いします。」
「私は、久々知兵助です。」
「5年ろ組の竹谷八左エ門です。」
『ああ、よろしくな。』
それにしても、さっきから久々知の豆腐を見つめる視線が凄い。愛しそうな目で俺の豆腐を見ている。そんなに好きなのか?
「えっと、……これ食べてもいいぞ?」
「わあっ!ありがとうございます!!」
『あ…うん。そんなに喜ぶとは思わなかったよ。』
「兵助は、豆腐料理が大好きなんですよ。」
豆腐を久々知に渡せば、ぱあああと目を輝かせる。のあまりの喜びように心底驚いていると、尾浜がさりげなく教えてくれる。……うーん。久々知が子犬みたいに尻尾振って豆腐を持っているように見えるのは俺だけなのか?
「蓮夜さん私も食べたい!」
『じゃあ、あーん………。』
いつの間にか不破から逃げてきた三郎が、俺の隣の席に座って物欲しそうな顔をしている。それがあまりにも可愛くて、おかずを三郎の口の前まで持っていくが、
『やっぱり、あげない』
パクっと自分で食べる。
すると三郎は頬を膨らましてぶーぶー文句を言う。いや、その顔も反則並みに可愛いけどさ、俺の食事取らないでよ。
『俺じゃなくておばちゃんにもらってこい。ほら、みんなも定食もらってきな。』
その言葉に三郎達は素直に定食をもらいに行った。その後ろ姿を微笑ましく見ている俺は、既におばあちゃん並みの精神年齢な気がしてならない。でも可愛いんだからしょうがない。可愛いは正義だ。
その後、5年生全員に囲まれながら仲良く昼食を食べたのはまた別の話。
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