▼ 鷹と蛇-03-孫兵side
「ジュンコー!ジュンコー!!」
僕が少し目を離したうちにまたジュンコが何処かに行ってしまった。いつも僕の側から離れちゃ駄目だってあんなに言っているのに。
「ジュンコー!……本当に何処行っちゃったんだよ。」
がさがさと草むらをかき分けながら、彼女の美しい赤色を探す。微かに聞こえた誰かの話し声に少し視線を上げ遠くを見やる。すると、誰かの首に巻き付いてるジュンコの姿があった。
「ジュンコォォォ!!」
急いでジュンコの元に飛んで行く。ジュンコを首に巻いていたのはこの前新しく事務員になった蓮夜さんだった。蓮夜さんは、僕の叫び声と勢いある登場に少し吃驚したみたいで戸惑っていた。
『あっ、えっと………。この子の飼い主さん?』
「はい!ジュンコは僕の大切な"友達"です。」
『そっか。友達か。』
僕が"友達"を強調して言えば、蓮夜さんはふっと笑った。それは決して馬鹿にした笑みじゃなくて、とても優しい優しいものだった。
『お前ジュンコって言うのか。いい名前だな。』
蓮夜さんがジュンコを撫でながら話しかけると、ジュンコも嬉しそうにシャァァと答えた。
ジュンコを僕に返してくれたとこで蓮夜さんはふと何かを思い出したように僕を見た。
『まだ自己紹介してなかったな。俺は……』
「知ってます。蓮夜さん、ですよね。」
名乗ろうとした蓮夜さんに即座に答えれば、ぱちぱちと目を瞬かせてから笑った。僕、この笑いかたも結構好きだな。
「僕は伊賀崎孫兵です。ジュンコがお世話になりました。」
ぺこりと頭を下げればジュンコも一緒に頭を下げた。
『全然大丈夫。寧ろジュンコのお陰で伊賀崎と話せたから、こっちが感謝しないとな。』
ふふ、と笑って僕の頭を撫でた蓮夜さんがとても綺麗で同じ男なのに一瞬見惚れてしまったのは僕だけの秘密だ。
『ああ、そうだ。俺も紹介したい奴がいるんだ。おいで。』
そう言えば、何処に隠れていたのかわからないが朱色の珍しい鷹が蓮夜さんの元に飛んできて腕にとまった。とても綺麗な子だった。
『こいつは朱華。俺のーーー"家族"だ。』
朱華を"家族"だと言う彼は誰よりも優しく哀しい瞳をしていた。ああ、朱華は蓮夜さんにとってかけがえのない大切な存在なんだ。僕にとってジュンコと同じぐらいの、否それ以上かもしれない存在だとすぐに分かった。
『よろしくな伊賀崎。』
「あっ、はい。…えっと……その…。」
伊賀崎、か。どうせなら
「孫兵、って呼んでください……。」
もっとはっきり言えば良いのに、僕は恥ずかしくなって俯きながらぼそっと呟いた。
『ふふ、わかった。孫兵、改めてよろしくな。』
今日、僕は蓮夜さんと少し仲良くなり、ジュンコは天敵であるはずの鷹の朱華と友になった模様。
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