TRIP*名探偵コナン | ナノ
 道は切り開くものである-03-


「ご苦労だったな、広田雅美……。…いや、宮野明美よ……。」

明美さんのイヤリング型盗聴器が拾ったたジンの声が、耳元のイヤホンから鮮明に聞こえてぞくりとした。本物だ。本物のジンだ。
会いたかった訳ではない。むしろ一生関わりたくなかった人物だけど、少しは興奮はするものなのだ。原作を読んでいた俺の中の"あたし"が。

それにしても………。
気配を断って、潜んでいるコンテナの影から顔を覗かせる。

『………悪い顔…。』

悪人面ってああいうのを言うんだろ。普段、よく職質されないよな。俺なら真っ先に怪しむけど。
ジンを形容する言葉は沢山あるかもしれないけど、冷酷って言うのが似合っていると俺は思う。因みに、俺の場合はなんだろう?うーん、考えたことなかったな。

「奴はお前と違って、組織に必要な人間なんだよ……。最後のチャンスだ。金のありかを言え。」

拳銃を構えたジンに、俺もホルスターからシグザウアーを抜いた。……江戸川コナン、タイミングよくこの場所に来てくれよ。頼むから。じゃないと予定が狂ってしまう。

「くくく、あばよ宮野明美……。」

ボーッと大きな船の汽笛と、パァンと乾いた拳銃の音が混ざりあって辺りに響いた。

その時、軽快な足音が聞こえてくる。足音から推測するに大人と子供の2人がこちらに向かって来ていた。まったく、さすが主人公とヒロインだ。原作通りのタイミングで、俺の願っていたタイミングで、ちゃんと来てくれた。お陰でこれ以上拳銃を使う予定が無くなった。良かった。

誰かが近づいてきたことにいち早く気づいたジンが、ウォッカに目で合図してその場を離れようとする。一瞬、僅かな違和感を感じたようにジンが明美さんの方をちらりと見たが、足早に去っていった。セーフ、だな。
崩れ落ちる明美さんに江戸川コナンが駆け寄った時には、すでに2人は近くに停めていたポルシェに乗り込み走り去るところだった。

「蘭姉ちゃん!早く救急車を!!それにおじさん達にもっ!!」
「う、うん!わかった!」

どうしてここがわかったの、と明美さんが江戸川コナンに尋ねれば、彼は発信機を時計につけていた事や自分の推理を口にした。驚く明美さんに自分の正体を明かした江戸川コナン、否、工藤新一にどこか明美さんは納得したような顔をしていた。

遠くからサイレンの音が聞こえてきた。おっと、準備しないと。俺は銃をホルスターにしまい、パパッと身なりを整えた。最後に髪を結って帽子に入れ込めば、救急隊員に変装完了だ。
一度その場を離れ、到着したばかりの警察官達に紛れ込む。同じく救急隊員に変装したマスターとフリークと合流して先程の場所に戻った。

「頼んだわよ……。小さな探偵…さ……、…」

ぱた、と明美さんの手が力なく地面に落ちた。
一瞬、原作の光景と目の前の光景がだぶって息が詰まりそうになった。ずっと見て聞いていたのに、明美さんは生きてるって分かってるのに、こんなにも不安に駆られるなんて馬鹿みたいだ。




prevnext

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -