◎ 道は切り開くものである-02-
明美さんに渡したイヤリング型盗聴器から聞こえてくる音を聞き流しながら港に向かう。
港近くの人気のない道路にひっそりと停まっている救急車を見つけた俺は、バイクを置き車両番号を確認してからバックドアを開けた。
『守備は?』
「上々だ。」
「宮野さんの方は?」
ストレッチャーに腰掛けパソコンをいじるマスターとフリークは余裕綽々だった。
イヤホンに意識を持っていけば、明美さんと大男の声が聞こえる。大男、もとい山田明の方はもうすっかり酒に酔っているようだ。嫌でも聞こえてくる下品な笑い声と、金を自分の物だと豪語する話の内容に舌を打ちたくなった。
『そろそろ、終わりますかね。』
奴の命が。
イヤホンから聞こえる音が静かになると思ったら清々するな、なんて口が裂けても言えないけど。いや、この面子なら問題ないか。
しかし、凄いな。2人に任せた仕事は簡単ではなかったはず。それなのに、この短時間でもう根回しが済んでるなんて。組織も恐ろしいかもしれないが、この2人も同じくらい恐ろしい。敵じゃなくて良かった、本当にそう思った。
『あ、』
苦しそうな声と、げほっと何かを吐く音が聞こえてきたかと思えば、今まで聞こえていたはずの奴の声が一才消えた。そして鳴った自分の携帯に出れば、明美さんが平静を装いながらも震えた声で終わったことを教えてくれた。
……やっぱり、俺がやった方がよかったかな?
「この後は、ジン達に呼び出されている港に向かったらいいのよね?」
『はい、あとは先程教えた通りに。………あ、それから10億円の在りかと組織のごく僅かな情報を、追ってきた小さな探偵くんに話してもらって大丈夫ですから。』
「え?」
『明美さんも気にしていた、毛利探偵事務所にいたあの小さな探偵くんですよ。調べたんです色々と。彼には組織の事を知る権利がある。まあ、これは俺の個人的な意見ですが。』
例え己の不注意で巻き込まれたとしても、組織の被害者ならば知る権利がある。それに、この先の原作には必要な出来事だから。
一般人に、しかも子供に、普通なら話してはいけない内容の話をしろと言う俺に、何も聞かずにわかったと答えてくれる明美さんには感謝してもしきれない。
「じゃあ、また後で……ね。」
『はい。何かあったらすぐに駆けつけれるように側にいますからね。』
「ふふ、頼りにしてるわ。」
ぷつりと切れた電話を握りしめた。
大丈夫、明美さんの演技力を信じよう。
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