記憶 (シン)裏
優しさなんて要らないから。
だからどうか私を見て。
どんな顔をしていてもいいから、
どうかその目には俺だけを... 。
アイツが無愛想なのは今に始まったことじゃない。
アイツがなんの感情も絡ませない冷めた目を向けるのも、
どんな言葉にも、薄っぺらい反応しか返さないことも、
女であるがゆえの特権を使おうとしないことも、
ある時からそれが俺だけに対する態度になったと気付いていても、
恐らく俺を疎ましがっているのだろうと結論付けても、
どうでも良かった。
そうだ。どうでも良い。
...どうでも良い、はず、だ。
チッ。
落ち着かない。
苛々する。
なぜか、なぜだか俺は、アイツを見る度に、無性に苛々するようになっていた。
苛々する自分に、更に苛立つ。
あんな女の態度に一々気分が左右されるなんて。
己の感情が思う通りにならないなんて。
まったく俺らしくない。
その日。
いつも通りにアイツが航海室の掃除に来た。
ここは綺麗なんだからわざわざ毎日掃除に来ることはない。
「お前は必要のないところまで掃除する趣味でもあるのか」
そんなに不快な存在なら、近寄らなければ良い。
そんな俺を、相変わらずの目でチラ。と見てすぐに逸らし、そうかもしれませんね?と呟いた。
チッ。
苛々する。
横目で見ると、黙々と掃除をこなすアイツの姿。
まるで俺を意識しないアイツ。
直そうと思っていた海岸図(※港湾の出入りをする時に用いられる図)の続きも、手に付かない。
「私が居たら、気が散りますか?」
「どうやったらこの俺がお前ごときに気を取られると思えるんだ?めでたい脳ミソだな」
「確かに。スミマセン」
クソッ。
なぜ言い返さない?
どうすれば反論する?
なぜ怖がらない?
どう言えば泣く?
どうすれば...どうすれば俺に... 俺で... お前のその表情を変えられる... ?
ダンッ!!
気が付けば、雑巾を持ったアイツの手を掴み上げ、壁に押し付けていた。
いきなりシンさんに捕まった、と思った途端口を塞がれた。
噛み付くような、激しい口付け。
「なぜ抵抗しない?
まんざらでもないのか」
フ、と笑われた。
「... こういう時、一番無駄なのが、その抵抗ですから」
「そうかよ」
その目。
シンさんのその目。
私はそれを見る度に、どうしたらいいのか分からなくなる。
そして今もまた、逸らしてしまった。
シンさんは苛立ちを露にして、私をソファーに押し倒した。
シンさんの視線を痛いくらいに感じるけれど、私は目の端にそれを映し出すだけで精一杯だ。
最初は単純に緊張していただけだった。
シンさんだけじゃない、みんなに。
その内に、徐々に馴れてきて、普通に振る舞えるようになった。
シンさん以外なら。
どうして私をそんな目で見るんだろう。
時には熱い、時には冷たい、
ある時は見下したような、
或いは思い詰めたような、
だけど決して私を近寄らせてはくれない、その目。
その目の奥に何があるのか、闇なのか光なのか、或いは私の知らない誰かを...
チ、と舌打ちが聞こえた。
突如、腰が浮いてズボンと下着を剥ぎ取られた。
すごい早業だった。
え、と思う間に拓かれて持ち上げられた両足。そして。
「くっ... ぅぅ... 」
声を、噛み殺した。
乾いたままの入り口に、硬く熱を孕んだシンさんのモノを充てられて、ひきつるような痛みを感じる。
「... こんな状況で... よく、勃ちます... ね... 」
「お前こそ、こんなことされてるのによくそんなに喋れるな」
シンさんも痛くないのかな。
ぐぐ、と強引に侵入してくる。
「んんーっ!!... っあ。はいっ... 」
... 挿入っ... ちゃ、った... 。
「きつ... っ」
「濡れて、ないんだから、... 仕方ない... です、よ... 」
なんか、初めてまともに話した気がする... 。
[ 1/2 ][*prev] [next#]
complete novel top