そういえば、初めてかも知れない。
コイツとこんなに喋るのは。
こんな状態なのに、な。
自嘲めいた息が零れる。
「贔屓... 」
ヒクッ、と贔屓のナカが反応した。
「お前... 。
俺のモノを覚えようとしてるのか?... ここでっ」
無理矢理捩じ込んでから動かしてなかったのは、コイツのナカを、意外にも、本当に意外にも、味わってしまっていたから。
ぐっ、と腰を進めて、ゆっくりとグラインドさせてから、動きを止める。
「う... わ... ぁ、んは... ぁ... そもそも女のソコは、そういう仕様ですよ... んぁあっ!」
「チッ。なら忘れないようにしてやるよ」
ゆっくり。
ゆっくり。
「あぁ... っ... は... ぁっ...んん... んぅ」
本当に形を覚えさせるかのように、止めては動かし、動かしては止める。
「は... ぁ... 形なんて... すぐ、忘れますよ... ふっ... うぅ... っすぐまたっ、他の人を覚えて、そしてまた忘れ、ます。
ソコは快感しか記憶しないんです。
どんなやり方でも、
どんな相手でも、
残るのは与えられた快感の記憶だけです。
だけどそれも僅かな期間にすぎません」
「言いたいことはそれだけか?
組み敷かれて無理矢理貫かれているくせに、随分達者な口を持ってるじゃないか、贔屓」
挿入っている俺のモノ以外の何が刺激になるのか、キュ、キュ、と何かに応えるようにナカが締まる。
「ぁあっ!... はぁ... あ... 」
「どうした?トロトロになったな」
「それ... っも... んぅっ...ぁぁ...仕様で、す ...は... ぁあ... 」
執拗に、ひどく緩やかな動きを続けるシンさん。
「はっ... はぁっ... 」
ポタッ、と顔に落ちてきたのは、汗。
汗、かくんだ... シンさん。
だんだん掠れてきた声。
少しひそめられる眉。
一筋髪が貼り付いた首筋。
振り撒かれる色気に、自分のナカが蠢くのが分かった。
どうして私なんかを... 。
どうして私なんかと... ?
贔屓、と呼ばれる度に、切なくて、苦しくて、泣きたくなって、快楽に震えた。
ゆるゆるとした動きにもどかしくなって、上げていた脚をシンさんのお尻に回して、グ、と引き付けた。
「んんっ!... あっ... 」
もどかしくてもどかしくて堪らない。
堪らない。耐えられない。
助けて...。
「こんなのは... もう、ヤ... だ... 」
私は、すがるように見上げて、腰を浮かせて押し付けた。
もっとシンさんを深くで感じられるように、自分から動かした。
こんな風にしないで。
お願いだから。
どうせなら、私を抉って。
「フッ。」
シンさんが、それは綺麗に笑った。
また贔屓のナカでキュウゥ、と搾られる。
「おい、随分積極的だな?それも仕様なのか?」
「ふ... ぁ... そ、う...かも ...あっ、あっ、 ... あぁ...ふ、ぁっ」
そう言いながらもきゅうきゅうと締め付けてくる贔屓のしっとりと潤った内壁は、彼女の言葉とは裏腹に、とても素直でとてつもなく貪欲だ。
ああそうだ。
この目。
何よりもこの目に振り回された。
俺が話しかけると必ず逸らされるこの目。
コイツが話しかけてくる時には、しっかりと合わされるこの目。
「贔屓... 贔屓」
「ん... ぅ、んあ... 」
名前を呼ぶ度に、ヒク、ヒク、と下の口が返事をする。
どれだけ強情なんだ。
「おい。身体は素直だな?」
「... 嘘つき、かもし... 」
「贔屓」
「くっ... 」
「贔屓?」
「うわ... ぁっ... やめっ... やめて... 」
フッ。
名前、か... 。
初めから名前を呼べば、良かったんだな。
俺はコイツを... 。
シンさんは、何度も何度も繰り返して私の名前を呼びながら、腰を打ち付けた。
「ああ... っ!シン、さん... っシン...っさんっ!」
私も呼んだ。
何度も。
何度も。
子宮ではなく、網膜に、その綺麗な姿を焼き付けるように、恍惚と閉じてしまいそうな目を見開いて。
シンさん。
「ふ... んう... 」
舌が、ねっとりと、口腔内に入る。
「もう、呼ぶな... 堪らない... 」
シンさん。
私は、シンさんを... 。
「シンさん... シンさん... 」
揺さぶられながら、絡み付きながら、譫言みたいに唇を動かす。
私のナカで、質量が増す。
「っ... 贔屓っ... 」
甘く、呼ばれる。
誘われて、収縮する、贅沢な欲望。
離したくない。
離れたくない。
「あ... シ、ン...さぁ... っんぁっ 」
熱い塊が、私のナカで、弾けた。
「... くっ」
堪らず、中で放った。
端から外で放つ気などなかったけれど、もう少しだけ、贔屓の声を聞いていたかった。
無理矢理脚を拓いた。
無理矢理捩じ込んだ。
二度とこの目に映しては貰えないだろう。
だからせめて今だけ、あと少しだけ... 。
何度も呼ばれて、離したくなくなった。
贔屓を貫いて、奥に、奥に、己の欲望を放った。
放ってしまえばこんな時でも終る。
俺は、まだ未練がましく疼くソレを、
放った精を奥へ奥へと押しやるように数回緩やかに打ち付けて、
引き抜こうと... して、捕まった。
「お... ね、がい... 抜かない、で... っ!」
初めて贔屓が涙を見せた。
初めて贔屓が女を見せた。
初めて、贔屓の目の奥に宿るものを見た。
「フッ。お前は、俺のものだな、贔屓」
驚きに目を見開いて、呆ける贔屓。
そうして初めて、花が綻ぶような笑顔を俺に、俺だけに、向けた。
抱き締めた。
俺だけのものだ。
そして俺は、贔屓... お前の虜。
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