fragola
雲雀夢/少陰夢


Since:2010/08/01
Removal:2013/04/01



非日常が当たり前


「・・・ーっ・・・・・・しくじったなぁ・・・」



お世辞にも良いとは言えない趣味の為、池袋に来ていた臨也。

例の如く、金髪バーテンダーの静雄に出くわし、殺し合い宜しくの喧嘩勃発。


そして避けきれなかった1発のせいで、左腕が折れた。

千切れなかっただけ良しとするべきか。

何てったって、相手は化け物だ。

ナイフが5mmしか刺さらない腹筋なんて、あってたまるか。

絶対に人間じゃない。


人気のない公園のベンチに、とりあえず腰を下ろした臨也は、大きく息をついた。


体力が回復し次第、新羅の所に行こう。

そして、西口付近にはなるべく近寄らないようにしよう。



「あの、大丈夫ですか?」



不意に声をかけられ、驚いて顔を上げた。


痛みで意識が朦朧としていたとはいえ、気配に気付かないとは・・・。



「大丈夫・・・なんて言っても説得力はないか」


「そうですね。折れてますよね?」



そう言って、本当に心配そうに腕を見る彼女は、今まで逢った女性の中で迷うことなく1番だと言い切れるほど、美しかった。


少し下くらいか?


大体の年齢に当たりを付け、年下と判断した臨也は砕けた口調で話す。



「・・・ちょっと失礼します」


「〜〜っ!!」



少し動かされただけでも激痛が走る。

痛い、なんてもんじゃない。


あー、本当に死ねばいいのに、シズちゃん。



「折れてるって言うか、骨が粉々じゃないですか・・・・・・目、瞑っててください」



サッと俺の目を片手で覆い、反対の手を腕に当てた。


さっきよりも、彼女の手が大分暖かく感じるのは気のせいだろうか?

しかし、痛みが和らいでいく気がするのは、気のせいではない。



「まだ痛みます?」



目から手を離され、腕を見ると完治していた。


普通に動くし、痛みなんて全くない。



「・・・・・・何?君、人間じゃないの?」



嬉しそうな声だと、自分でも思った。



「人間ですよ?ただ、普通とはかけ離れた・・・って形容が付くでしょうけど」


「普通とはかけ離れた、ねぇ・・・」



ふつふつと、沸いてくるのは好奇心。


彼女は間違いなく、今まで逢ったことのない人種だ。



「はい。まぁ、それが私にとっての“普通”なんですけど。

あなたこそ、普通とはかけ離れてますよね」


「かもね。でもこれが俺にとっての“普通”だから」


「命は大切にしたほうが良いですよ?

あなた、危ない事に自分から首を突っ込むタイプじゃないですか?

たくさん恨まれてそうです」


「よくわかったねぇ」



普段は自分が人の本質を見極める側だったから、彼女に言い当てられたことには少し驚いた。



「それで?

イタリアの有名ブランドのドレスを着て、如何にも良家のお嬢様の様な君は、こんな時間にこんな人気の無い公園に何でいるのかな?」


「パーティーの帰りです。偶々この前を通ったらあなたが見えたので」



なるほど。

確かに公園の入口には高級車が止まっている。

と、それから男が1人、降りてきた。

銀髪の端正な顔立ちの青年。



「姫!そろそろ行くぞ!」



日本人ではないだろうに、随分と流暢に日本語を話す。



「そう・・・ね。ごめんなさい、行きましょうか」



隣に腰を下ろしていた彼女は、差し出された手を掴んで立ち上がった。



「喧嘩も程々に。

では、Arrivederci・・・





折原臨也さん」


「!!!!!?」



クスッと笑った彼女は、男に手を引かれるまま、車に姿を消した。



「Arrivederci・・・・・・また会いましょう・・・ねえ」



シズちゃんに腕を折られて、最悪な1日だと思ったけど・・・


予想外の出逢いをしたようだ。



つまり、彼女は俺に会う予定があるのだろう。



―――面白い。


どこの誰かは知らないけど、君に会うのが楽しみで仕方ないよ。




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