「・・・ーっ・・・・・・しくじったなぁ・・・」
お世辞にも良いとは言えない趣味の為、池袋に来ていた臨也。
例の如く、金髪バーテンダーの静雄に出くわし、殺し合い宜しくの喧嘩勃発。
そして避けきれなかった1発のせいで、左腕が折れた。
千切れなかっただけ良しとするべきか。
何てったって、相手は化け物だ。
ナイフが5mmしか刺さらない腹筋なんて、あってたまるか。
絶対に人間じゃない。
人気のない公園のベンチに、とりあえず腰を下ろした臨也は、大きく息をついた。
体力が回復し次第、新羅の所に行こう。
そして、西口付近にはなるべく近寄らないようにしよう。
「あの、大丈夫ですか?」
不意に声をかけられ、驚いて顔を上げた。
痛みで意識が朦朧としていたとはいえ、気配に気付かないとは・・・。
「大丈夫・・・なんて言っても説得力はないか」
「そうですね。折れてますよね?」
そう言って、本当に心配そうに腕を見る彼女は、今まで逢った女性の中で迷うことなく1番だと言い切れるほど、美しかった。
少し下くらいか?
大体の年齢に当たりを付け、年下と判断した臨也は砕けた口調で話す。
「・・・ちょっと失礼します」
「〜〜っ!!」
少し動かされただけでも激痛が走る。
痛い、なんてもんじゃない。
あー、本当に死ねばいいのに、シズちゃん。
「折れてるって言うか、骨が粉々じゃないですか・・・・・・目、瞑っててください」
サッと俺の目を片手で覆い、反対の手を腕に当てた。
さっきよりも、彼女の手が大分暖かく感じるのは気のせいだろうか?
しかし、痛みが和らいでいく気がするのは、気のせいではない。
「まだ痛みます?」
目から手を離され、腕を見ると完治していた。
普通に動くし、痛みなんて全くない。
「・・・・・・何?君、人間じゃないの?」
嬉しそうな声だと、自分でも思った。
「人間ですよ?ただ、普通とはかけ離れた・・・って形容が付くでしょうけど」
「普通とはかけ離れた、ねぇ・・・」
ふつふつと、沸いてくるのは好奇心。
彼女は間違いなく、今まで逢ったことのない人種だ。
「はい。まぁ、それが私にとっての“普通”なんですけど。
あなたこそ、普通とはかけ離れてますよね」
「かもね。でもこれが俺にとっての“普通”だから」
「命は大切にしたほうが良いですよ?
あなた、危ない事に自分から首を突っ込むタイプじゃないですか?
たくさん恨まれてそうです」
「よくわかったねぇ」
普段は自分が人の本質を見極める側だったから、彼女に言い当てられたことには少し驚いた。
「それで?
イタリアの有名ブランドのドレスを着て、如何にも良家のお嬢様の様な君は、こんな時間にこんな人気の無い公園に何でいるのかな?」
「パーティーの帰りです。偶々この前を通ったらあなたが見えたので」
なるほど。
確かに公園の入口には高級車が止まっている。
と、それから男が1人、降りてきた。
銀髪の端正な顔立ちの青年。
「姫!そろそろ行くぞ!」
日本人ではないだろうに、随分と流暢に日本語を話す。
「そう・・・ね。ごめんなさい、行きましょうか」
隣に腰を下ろしていた彼女は、差し出された手を掴んで立ち上がった。
「喧嘩も程々に。
では、Arrivederci・・・
折原臨也さん」
「!!!!!?」
クスッと笑った彼女は、男に手を引かれるまま、車に姿を消した。
「Arrivederci・・・・・・また会いましょう・・・ねえ」
シズちゃんに腕を折られて、最悪な1日だと思ったけど・・・
予想外の出逢いをしたようだ。
つまり、彼女は俺に会う予定があるのだろう。
―――面白い。
どこの誰かは知らないけど、君に会うのが楽しみで仕方ないよ。
非日常が当たり前
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