恋のいろはも相手次第


俺の初恋とやらが、実って3日……俺は早くも壁にぶち当たっていた。

そもそも、付き合うという事自体が初めてな訳で、疑問だらけなのはまぁ、仕方ねぇと思うんだが……

何が、変わったんだろうか?

ナマエが部屋に来てくれる様になった。
手を繋いで歩いた。
誰かに取られる心配が……減った。

まぁ、そう考えれば変わっちゃいるのかと、執務室から外を見た。
丁度通り掛かり、見上げたナマエが手を振ってくれた。

気にしなきゃ、見上げねぇよな?

少し嬉しく思った俺も、手を挙げて応えた。

翌日は訓練で、初夏にしては暑いと思う陽気の中、俺もうっすらと汗をかいていた。

気持ち悪ぃな……

暑さのせいか、少し長めに取った休憩を利用して、近くの泉で体を拭こうと向かった。




兵長……何処かしら?

折角の長めの休憩だから、やっぱり傍に居たいなと思って探していると、人気の無い林の方へ向かう背中を見つけた。
これはチャンスだと、小走りに追って行くと、泉があった。
声を掛ける間も無く、兵長は上着を脱ぎ、シャツも脱いでハンカチを泉に浸した。

う……わぁ……

少し薄暗い中に射し込む陽射しが、露になった背中を照らして、思わず息を飲んだ。
背景のせいなのか、うまい具合に当たる光のせいなのか……将又、初めて見たからなのか、まるで神聖なものを見ている様な錯覚の中、私の頭はイケナイ妄想が膨れ上がった。

「何だ、居たのか……」
「えっ?」

あれ? と、見れば、身なりを整えた兵長が目の前に居た。

「居たなら、背中を拭いて貰えば良かったな……」

残念そうな声に、私も妄想に浸ってさえいなければ……と、残念な事をしたと思った。

「少し座るか」
「あ、いい感じの岩が……」
「あぁ、そうだな」

泉の傍にあった岩に並んで座り、まだ落ち着かない胸を誤魔化す様に、訓練の話などをした。

「お前は左足の踏み切りが弱い、少し意識して踏み切ってみるといい」
「そうなの?」
「あぁ、跳んだ時にたまに不安定になるだろう?」
「そういえば……そんな時がある。ありがとう、そんなところまで見てくれてたなんて、嬉しい」
「あ、あぁ……まぁ、心配だからな」

コツンと肩に頭をくっつけてみると、少し照れた様な返事に更に嬉しくなった。

「そろそろ、戻るか」

私の頭を撫でて、兵長が言った。
その手で、もっと違うところを触って欲しいと思ってしまった。
これはまずい、そんな事考えてる場合じゃない。
パンパンと両手で軽く頬を叩いて後を追うと、「何やってるんだ?」と、振り返ってくれた。

「気合い入れてます、左足ですよね!」
「あぁ、気張り過ぎも良くねぇぞ」

スッと伸びた手が、躊躇いがちに頬を撫で、包まれた。

気を付けろよ……と、言葉と一緒に額に唇を当てられ、嬉しさともどかしさに胸が大騒ぎになった。

気合い……後で又入れておかないと……




休憩中にナマエに会えたのは、嬉しい反面、少々辛いと思った。
適度に体を動かして、良い感じにウォーミングアップ出来ている様な状態というか、すこぶる体調の良い状態というのは、欲も呼ぶ。

そんなところに、肩に凭れられると……自然と触れたくなるのを必死に誤魔化していた。
人気の無い場所というのも又、絶好のシチュエーションであった。木漏れ日に浮かぶ裸体を想像しても、おかしくは無いだろう。

今はこれで我慢だ……と、柔らかな頬を撫でて両手で包み、額に口付けた。

それから数日、デートをしたり、食事に行ったり、そうでない日も部屋でゆっくり話したりと、なかなか充実した日々を過ごした。




「ねえ、ハンジ……」
「ん?」

私はここ数日思っていた事を、顕微鏡にご執心なハンジに相談しようと声を掛けた。

「私って、魅力無いのかなぁ?」
「は?」

顔も上げずに返事をされて、ちょっと悲しくなったけれど、まあ、ハンジだから仕方ないと思いつつ、続けた。

「お互い子供じゃないし、兵長って手が早いイメージなのは、やっぱり噂のせいなのかな?」
「な、何の話?」

やっと顔を上げたハンジを見て、「毎晩の様に部屋に行ってるけど、何も起こらない」と言えば、珍しくハンジが慌てた様に見えた。

「どうかしたの?」
「え? いや、じゃあさ、ナマエはそんな気分な訳?」
「うん、この前たまたま兵長の上半身だけだけど、裸見ちゃってさ……」
「なるほどね、ありゃ凄いよね」

うっとり……そんな顔をしてるだろう私をハンジは困った顔で見ていたけれど、そういう気分になるのはわかってくれた様だった。

「アピールしてみた?」
「特には……してないかな」
「そんな気分だ……って、言えりゃ早いんだろうけど、無理そうだもんね」
「そういうのは、男の人にしてもらいたいでしょ……?」
「だよね……」

そこで、色々と作戦を練ってみた。




作戦その1
『腕を組んで胸に押し当てる』

夕食の後、部屋まで歩く時に腕を絡め、兵長の腕を胸で挟む様にしてみた。

「今度、新しく出来たカフェに行きたいな」
「あぁ、コーヒーが旨いらしいな。……胸、当たってるぞ?」

……撃沈。


作戦その2
『露出度の高い服で部屋に行く』

「見て見て、新しい服着てみたの!」
「……」
「どう? 似合うかな?」

頑張って胸元の開いた服で、ソファーに座る兵長の前で前に屈んで見せた。

「悪くねぇが、夜はまだ冷える」

……上着を着せられた。


作戦その3
『隣に座り太股に触る』

スッと触れて……すぐに離して、黙ったまま一瞬見つめる……口を薄く開いておく。

「……」
「……」
「ご、ごめんなさい……」
「具合でも悪いか? もう、送ろう」

……何故、そうなる?




「ハンジぃ……」
「古典的過ぎてダメだったかな?」
「作戦よりもやっぱり魅力とかなの?」
「そ、それは無いと思うよ」
「何でどもるのよ……」

そこで、そんな事もあろうかと、次なる作戦も考えてあると言われた。
一応聞いて帰ったものの、試してダメだったら、やっぱり自分に魅力が無いのかも知れない……と、落ち込むだけの様な気さえしてきた。




ナマエが出て行って、私は、これはまずいと思った。
暫く考えていたけれど、早いうちにリヴァイと話をしないと……そう思ったところに、乱暴にドアが開いた。

「クソ眼鏡……」

どす黒い……というか、禍々しいオーラを背負ったリヴァイを見て、遅かったかと思った。

「い、言いたい事はわかってるから、落ち着いて、ねっ?」
「てめぇ、言ったよなぁ?」
「言った! 確かに言った!」
「1ヶ月は我慢するものだと……なぁ?」

以前、ナマエと付き合うよりもかなり前だけど、ひょんな事からリヴァイと恋愛の話になった事があった……




「なぁ、付き合い始めたばかりというのは……普通どういうもんだ?」
「あー、最初の1ヶ月くらいは普通にデートしたりするくらいで、いきなり襲うのはやめておいた方が無難かな」
「1ヶ月……?」
「まあ、その間に相手がそういう事をしたそうな雰囲気になれば、そりゃかまわないだろうけどね」
「1ヶ月か……」
「リヴァイ? 聞いてる?」




あの時、きっとリヴァイは後から言った事は聞こえて無かったんだろうなと思った。

「どうにも我慢出来ねぇ……俺からすりゃ、誘ってるとしか思えねぇんだが、我慢しなきゃならねぇんだろう?」
「あの後、相手が誘ってる雰囲気になれば別だって言ったんだけど……」
「あ? 聞いてねぇよ」

我慢しなきゃならねぇと聞いたから、誘ってるのかと思っても耐えたんだ……そう言って項垂れたリヴァイには申し訳ないと思いつつ、ちゃんと最後まで聞いてないのも悪いと言えば、舌打ちはしたものの、蹴りは飛んで来なかった。

そこから、ナマエの行動について訊かれたけれど、それは明らかに誘ってると思うと答えた。

「そうなる前に、何か無かった? 例えば、風呂上がりに鉢合わせてタオル一枚の姿を見られた……とか」

知らない振りをして、訊いてみた。

「あぁ、多分、上半身だけ脱いでるのを見られてるな……」
「それ……かもね」
「……?」
「男性が女性の裸を見たら、好きな相手なら間違いなくそんな気分になるだろうけど、女性にもそういった事はあるんだよ」
「そうならそうと言ってくれりゃ良いじゃねえか……なぁ?」
「誘って欲しいもの……なんだよ」

自分からそんな事言って、はしたないとか節操がないとか思われたくはない。でも、そういう雰囲気になって、誘って貰えれば、そうは思ってないという事になる。そう説明すれば、納得した様だった。

「成る程な……ストレートなのも悪くねぇが、恥じらいと思えば可愛いもんだな」

斜め上を見たリヴァイは、少し口角を上げた。

「妄想は帰ってからやってよ……」
「あ?」
「あー、はいはい、お帰りはあちら」

ドアの方へ背中を押すと、ドアノブに手を掛けたリヴァイが顔だけ此方に向けた。

「間違ってねぇ……よな?」

不安気な目をしたリヴァイに、私は頷いた。
ドアの方に視線を戻したリヴァイは、「明日、ナマエを休みにしといてくれ」と、少し小さな声で言って出て行った。

結構我慢したんだろうなと思えば、わからないでもないし、私の言葉も絡んでるといった事もあって……私はなんと理由をつけるかと考えながら、エルヴィンのところへ行った。




ハンジはああ言ったが、実際どうなのかと不安になった俺は、ナマエの部屋の前でノックも出来ずに考えていた。

何て、言えば良いんだ……

それでも、そのまま帰るのは無理だとわかっていた。あれだけ煽られて、既に我慢も限界だった。

「兵長?」

気配を察したのか、ナマエが少しだけドアを開けた。

「俺の部屋に、泊まりに来ねぇか……?」

思ったより、自信のねぇ声だったが、ナマエが恥ずかしそうに頷いた。

腕を組んだナマエが、そっと胸に寄せた。

「部屋まで待てなくなるだろうが……」
「す、すみません……」
「謝るな、喜んでるんだ」

部屋に入れば、そのまま抱き上げてベッドに運んだ。

ナマエとの初めての夜は……甘く熱く更けていった。




翌日、起き上がれないナマエの隣で、俺は我慢した方が良いと聞いた事があっんだと話せば、恥ずかしいと顔を背けたが、マニュアル通りとは行かないもんだと笑えば……ナマエも笑った。

それからは、互いにそんな気分の時は素直に誘うと……決めた。

End



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