From the beginning 2


背を向けたままのリヴァイに……

「リヴァイは意外と弱虫だったんだね」

元気を出せ、諦めるな……そんな言葉の代わりの言葉を残して階段を昇った。

地下牢から持ち帰った食事を、そのまま戻すのは申し訳ない気がして、自分の執務室で食べたけれど、冷めてしまったスープは美味しいとは言えなかった。

「報告に行かなきゃかぁ……」

食器を食堂へ返してから、団長室へ行ったら……そこにはミケが書類の山と格闘している姿があった。

「どうだった?」

俺が行くよりはいいだろうと、私が食事を持って行くようにと言ったのはミケだった。

「……ダメだね、あれは。食事も要らないってさ。今回だけじゃなくて、地下に居る限り食べないつもりみたいよ?」
「……そうか」
「ねえ、ミケはどう思う?」
「何でこうなったか……って事か?」
「うん、そう……」
「一番それを知りたいのは、リヴァイなんだろうと俺は思う」

唯一、リヴァイの話を聞いたミケがそう思うなら、事件と言うよりは事故なのかもしれないと思った。

「ナマエの話を聞かなきゃ何にもわからない……ってことかなぁ?」
「そうなるな」
「じゃあ、エルヴィンの所へ行って来るよ。病室でしょ?」

ミケの返事も聞かずに団長室を出て、ナマエの病室へ向かった。




病室には、心配そうに見つめるエルヴィンと、眠ったままのナマエの姿があった。

「ハンジ……リヴァイの様子は……」

背中を向けたままのエルヴィンに、リヴァイの姿が重なって見えた。

「相当参っていたよ。食事も拒否されて……」
「……どうした?」

眠っているとはいえ、ナマエの前で言っても良いものかと言葉に詰まった私に、エルヴィンが振り向いた。

「リヴァイは……死ぬ事を望んでるよ」
「やはりそうか……。ミケにも、もうナマエには会えないだろうと言ったそうだ。どんな結果にも従うと……」
「エルヴィンはどうしたいと考えてる?」

その時、エルヴィンの後ろのナマエの目が開いている事に気付いた。

「ナマエ……今の聞いて……」

勢い良く振り返ったエルヴィンが覆い被さる様に顔を覗き込んだ。

「兄さん……心配掛けてごめんなさい。私は大丈夫。それで、リヴァイは今どこに居るの?」
「地下牢に……自分から入った」
「彼は悪くない……悪くないのよ……」
「……そうか。俺にもわかるように話してくれないか?」

エルヴィンはゆっくりと椅子へと沈んでいった。
私は壁に寄り掛かり、目を閉じた。

ナマエの話はこうだった。
夕食を食べに来ていなかったから、仕事が終わらないのかと心配になって執務室へ行ったけれど、ノックに返事はなかった。居ないのを確認するためにノブを回したらドアが開いた。自室に戻ったのならば、鍵が掛かっているのに変だと思って中を覗いたら、真っ暗な中、ソファーに足が見えた。

普段なら、ドアを開ければ必ず起きているのに、珍しく眠っているようで……風邪を引いたらいけないと、毛布を掛けようとしたら、突然起き上がり殴り掛かって来たと。

「寝込みを襲われたと思ったのか?」

エルヴィンが立ち上がったけれど、ナマエはまだ続きがあると座らせた。

「様子がおかしかったのよ。普通に襲われたと思ったら、たぶん私はこの程度の怪我じゃ済まなかったかも知れない」
「……そうだな、何がおかしかったんだい?」

落ち着けと、自分に言い聞かせる様にエルヴィンは穏やかな声で先を促す。

「子供みたい……ううん、あれは子供だった。『助けて、怖い、死にたくない、来ないで』そう繰り返し言っていたの……」
「そうか……」
「殴る力も弱かったけど、床に倒されて頭を打ったのか、私は気を失ってしまって……」
「……」
「リヴァイは悪くない!」

行かなくちゃ……そう言って立ち上がろうとしたナマエをエルヴィンが止めた。

「せめて……医者に診て貰ってからにしてはくれないか? 目が覚めたら呼ぶ様に言われているんだ」

ナマエは渋々といった感じで頷いて、再びベッドに横になった。
エルヴィンが医者を呼びに部屋を出ると、ナマエが私を呼んだ。

「ハンジ……リヴァイは大丈夫よね?」

どういう意味かはすぐにわかった。

「大丈夫。万が一の時に、エルヴィンの怒りの矛先が自分に向く事がわかってるから、軽率なことはしない筈よ」
「……そう……よね」

ナマエは悲しそうな顔で笑ってから……窓の外を見た。

「夢を見てたの。行ったこともない地下街で、会った事もない筈の……子供の頃のリヴァイに会ったの」

普通ならば、嬉しそうに話すだろう内容なのに、 ナマエの声は沈んでいく……

「夜が怖いって泣いてたの。抱き締めたら……助けてって言った……その姿はいつの間にか今のリヴァイになってて、目が覚めたの」
「……ずっと怖かったのかもしれないね」
「助けてあげられるかな? 私に何か出来るかな?」

振り返って私を見た顔はとても真剣な顔で、私はいつもの様に笑って見せた。

「ナマエ……それが出来るとしたら、貴女しか居ないんじゃないかと思うよ?」
「そうかな?」
「そうさ! 考えてもごらんよ? リヴァイがどれだけナマエを大切にしてるか。他の奴等なんか……ほんっとどうでもいいって顔してくれちゃって……」

思わず笑ってしまったけれど、呆れる位にリヴァイの中心はナマエだ。

エルヴィンが医者を連れて戻ったので、私はエルヴィンと部屋の外で待った。

「ナマエの件は事故でいいよね?」

並んで壁に凭れるなんてなかなか無い状況で横を見れば、兄の顔をしたエルヴィンが天井から此方へ目線を移した。

「被害者が居ないんじゃ、事件にも出来ないだろう?」
「そうだよね〜」

程なくして、医者が部屋から出て来た。
訓練は休まなければならないが、吐き気や目眩などが無ければ、普通に生活しても大丈夫だろうと言われて、エルヴィンも私も胸を撫で下ろした。

部屋に入れば、ベッドに座り、難しい顔をしたナマエがこちらを見ていた。
強い意思……決意の灯る瞳はとても綺麗で、エルヴィンも私も発する言葉を待った。

「着替えてから、リヴァイの所へ行きます。私が戻るまで、誰も近付けない様にしてください」

真っ直ぐにエルヴィンを見据えるナマエから目を逸らさずに、エルヴィンは頷いた。

「無茶はしないでくれよ?」

その言葉に、今度はナマエが頷いた。
二人とも強いな……私はそんな事を思いながら、「じゃあ……」と出て行く背中を、エルヴィンと見送った。


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