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「ほら、みーちゃんも観客席に手ぇ振りなよー。サービスサービス」
「俺は今それどころじゃねぇんだよ…つかそのあだ名は止めろって言っただろ」
もう実熊さんは走るのを諦めて渋々一緒に歩いてる。
あんな隠れ怪力には勝てねぇよって事になって俺達も実熊さんを暖かく見守る事にした。
生徒会も共倒れだし次から頑張るしかねぇな。
実熊さんが帰ってきたらお疲れ様ですって言おう。
「えぇなー。俺も汰狼君と手ぇ繋いで練り歩きたいわぁ」
「残念だな。そんな競技はない」
鷹嗣のぼやきに俺よりも先に獅希がツッコミを入れた。
こいつらも何だかんだで仲良いよな。
獅希がこんなに気兼ねなく話すのも珍しいし。
「ん?結局1位はどうなったんだ?」
皆で実熊さんをどう暖かく迎えるかを話し合ってたから競技の事をすっかり忘れてた。
そういや着順のアナウンスが流れてねぇ。
『何という事でしょう!ついに生徒会と剣道部がトップに追い付いたぁぁぁああっ!!』
「「「えぇっ!?」」」
一斉にパンを吊るしてる所を見る。
剣道部と生徒会以外の選手全員がぴょこぴょこ跳ねてる。
……おい、パンの位置、高すぎねぇか?
「パンはねー、俺の身長に合わせて175センチのとこに吊るしたんだ」
のんきに笑いながら説明する会長の声がマイク越しに響いた。
あの人、胸んとこにマイク付けてたのか。どうりで実熊さんとの会話がよく聞こえたはずだ。
つか、そんな高くに設定したら誰も食えねぇだろっ!!
「この高さなら180センチあるみーちゃんしか取れないかもね?俺も口届かなさそうだしー」
「羊一…お前何で…」
「競り合ってもらわないと楽しくないからねー。はい、さっさと行きなよ」
会長に背中を叩かれて背伸びをしただけで実熊さんはパンが食えた。
他の部員達が跳ねてる中、実熊さんは無事1着でゴールした。
『今、漸く1位がゴールしましたーっ!!1位、剣道部ですっ!なお、他の部活はこれ以上は続行不可能と見なし配点は無しとなります!』
「実熊ぅぅうっ!よくやったわぁあっ!それでこそ主将よぉっ!」
ハートマークを蹴散らすぐらい嬉々とした虎威先生の声が響いてる。
実熊さんはパンを咥えたまま疲れきった顔で帰ってきた。
そりゃそうだよな。
「実熊さん、お疲れ様っす」
「……ああ」
口からパンを出して俺の口に押し込まれる。これ、まさかクリームパンか?ちょっと嬉しい。
疲れきった実熊さんを何とか抱き支えて皆で暖かく出迎えた。
こんなに実熊さんが疲れきってるの初めて見た。
もしかしてこれからの競技も会長に振り回されんのか?
考えただけで溜息が零れた。
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mokuji]