声に乗せて | ナノ
帰宅

 


無事練習も終えて今は寮に帰ってる途中。

「徹も歌上手いねっ。ちょっと見直したよ」

「そ、そうか?」

桜慈に歌を褒められて徹は嬉しそうだ。
確かに上手かったなぁ。
まだちょっと声を高くする時に声が裏返るのを気にして遠慮してる歌い方だけど上手いと思う。
……あとちょっと声が不安定だけどそこも抑揚と思ったら気にならない。
でもやっぱり、俺の師匠である母さんと比べちゃうからなぁ。


「じゃあ、僕と徹はここで降りるね。陵、燈瑪を襲ったら…」

桜慈、顔が怖いっ。でも迫力あってまた違う魅力が…

「燈瑪も気をつけてね。またねっ」

「燈瑪、陵、またな」


2人共寮に着くちょっと手前で車から降りちゃった。
変装中の桜慈に王道転校生の徹と万が一でも一緒に居るところを見られたら作戦が失敗するかららしい。
急に人が減ったからちょっと寂しい。

「はぁ、やっと癒される」

ちょっと疲れた声で呟いて抱き着いてくる陵を見上げる。
そういえば、今日は陵がやたら怒られてた気が…たかが俺に触ったぐらいで。
俺が癒しになるのかは分かんないけど頭を撫でてみた。
俺は頭撫でられるの結構好きだし。

「燈瑪…部屋でも撫でてくれるか?」

「撫でるぐらい、いつでもするよ」

あ、嬉しそう。
撫でられたら喜ぶなんて犬っぽいなぁ。
桜慈がワンコって言うのが分かった気がした。


「げっ」

「どうしたの?」

何やら腕時計を見て眉間に皺寄せてる。
車から見える空が結構暗くなってる。
もしかして…

「7時過ぎた」


その言葉に思わず溜息が漏れた。
うちの学園は土日祝だけ門限がある。
気が緩み過ぎないように休みの日は特に厳しく、という計らいらしい。
そしてその門限が夜7時。
遅れる場合、外泊する場合は例外なく届を出さなきゃいけない。
今日はこんなに遅くなる予定じゃなかったから届を出してない。


「もう門の所に立ってやがる」

陵がボソッと呟いて俺も学園の方を見たら腕に風紀委員会の腕章を付けた方々。
門限を過ぎた場合、風紀委員に灸を据えられるらしい。
俺はまだ入学したてだから門限過ぎたのは初めてだ。
ていうか、

「本来、風紀委員長の陵もあそこに居ないといけないんじゃない?」

「まぁな」

まぁなって。
けどまぁ、過ぎた事はどうしようもないしね。

車が丁度門の手前で停まったと同時に腕を組んで立っている1人の派手な人。
この人ならこれが陵の家の車って分かるんだろうなぁ。
俺、愛の鉄拳食らいたくないよ。


 


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