1 隣に住む鈴乃さんは小説家だ。それから、ガラクタコレクター。 でも、僕がガラクタと呼んでいるそれらは鈴乃さんにとってはお宝らしいけれど。 鈴乃さんは、料理がうまい。よくお菓子なんか手作りして、僕にふるまってくれる。この前食べた冷やしぜんざいはおいしかったと言ったら、また作ってあげるとはにかんでいた。 あんなにいい人なのに、鈴乃さんには恋人がいない。僕がなってあげてもいいけれど、鈴乃さんと僕じゃ少しばかり歳が離れているから無理だ。きっと、僕なんか弟くらいにしか思ってないだろう。 そして、今日も僕は庭から鈴乃さん家にお邪魔する。 「鈴乃さん、いる?」 はいはーいなんて、奥で声がした。たぶん、和室でガラクタでも眺めているんだろう。 僕はお邪魔しますって小声で断ってから、鈴乃さんの家に入った。 鈴乃さんの家は古い。僕が廊下を歩くたび、ギッ、ギッって軋む音がする。鈴乃さんのおじいちゃんの代から続くらしいけど、僕の目算ではもっと古そうだ。 おばけでも出そうなんて思ったら、背筋が震える。そしたら、ちょうどよく廊下沿いにある硝子障子がガラリと開いた。 「いらっしゃい、雨くん」 鈴乃さんが顔をのぞかせて笑う。鼻の頭が黒いんだけど、いったい何をしていたんだろう。 「こんにちは」 「はい、こんにちは。まあ、入んなさいな、雨くん」 鈴乃さんは僕を雨くんと呼ぶ。雨の日に知り合ったからだそうだ。あまり好きじゃないけど、何度言っても僕の本名を呼んでくれないからもう諦めた。それに、雨くんと呼ぶのは当然のことながら鈴乃さんだけだから、なんだか特別みたいで悪い気はしない。 「うわ、こりゃまたすごいね」 部屋の中はすごく散らかっていた。僕がそれを言ったら、鈴乃さんが肩を竦める。 「探し物をしていてね。そしたら、こんなんなっちゃった」 「ちょっとは捨てればいいのに」 「とんでもない!言ったでしょう?ここにあるのは、全部、」 「お宝、でしょ?」 僕がお決まりの台詞の続きを言えば、鈴乃さんはわかってるじゃないと笑った。 そう何度も聞かされれば、覚えるっての。 「で、何を探してたの?」 「手紙だよ」 僕も鈴乃さんの隣に腰を下ろして、ガラクタの中から一つつまみあげる。 切手だ。ちゃんとケースに入って伸ばされてはいるが、ホコリくさい。 鈴乃さんを見れば、もう僕から興味を失ったみたいに今はガラクタに埋もれてる。 探し物の続きを再開させたみたいだ。 手紙を探しているわりに、関係ないものばかり転がっている。 卵の殻、小麦の穂、硝子の欠片。 何に使うというのか。僕には謎だ。 |