従者
気づけば周りは火の海だった。
どこにも逃げ場はない。
このまま死ぬのですね。
あなたは私が守ります。
あなたはいつも側に居てくれましたね。
目を覚ますと、近くにあなたがいた。
底を知らない沼のように安心した。
綺麗な黄金色の毛並みが陽光で輝く。
切れ長の目と長い鼻。
端正な顔立ちであることは見てわかるものだ。
フワフワの尻尾は私だけの特権である。
ピンと立った耳で周囲の音をいち早く察知する。
いつも爪先立ちなのは、すぐに戦いの姿勢に入れるようにという理由らしい。
どうしたのですか?
あなたはそう尋ねた。
私はなんでもありませんと言って書物に目を通す。
向こうは不思議でいっぱいかもしれません。
私も不思議でいっぱいなのですから。
この気持ちに名前をつけましょうか。
これは好きだの恋だのといった容易な言葉ではまとめられません。
私の考えが正しければこの気持ちは、愛なのかもしれません。
この愛は愛といっても恋人の愛ではなく、もっと深い家族のような繋がりです。
赤の他人であるのにどこかに血の繋がりがあると錯覚するほどにです。
私はありがとうと言いました。
向こうはこちらこそですと言って気恥ずかしそうな笑みを浮かべていました。
終
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