09 | ナノ

09


なぜ、あんな悪夢をみたのだろう。


昼下がり、鈴蘭とソファで隣り合って本を読む。
だが、本の内容は一向に頭に入ってこない。今朝のことがひっかかってしょうがないのだ。まだ白蘭のあの平坦な声が聞こえてくる気がして、怖くて耳を澄まし聴覚神経に集中し、夢のことを考えてしまう。そんな状態で本に没頭もできず、ただ何となくページを捲り続けていた。


それから半時間ほどして、ようやく無駄な行為だと気づく。夢なんていくら考えても答えが出るはずもない。自然と眉間に寄った皺に気分を害されながら、本を閉じる。

ふと隣の鈴蘭を見てみると、こっくりこっくりと頭が揺れていた。
お昼寝の時間と言ったところだろうか。
可愛らしく微笑ましいのでそのまま見ていると、その内彼は僕にもたれて本格的な眠りについた。左半身にかかる体重は軽く、その上彼は温かかった。

どうしようもなく、僕はこの小さな天使を抱きしめたい衝動に駆られた。
なんだか心臓のあたりがむず痒く、締め付けられるような感じがする。


「これが恋ですかね…?」

「…むにゃ……」

「……クフ、なんてね」


さてどうしようか。
このままでも僕は構わないと言うかむしろこのままの状態を望むが、まぁ寝るにしては姿勢が悪いし身体にも悪いだろう。しかし下手に動かして起こしてしまうのは本意ではない。
考えていると、ずるり、と鈴蘭が僕の肩から滑り落ちていった。


「……」


まぁ、結果オーライだろうか。
僕の太腿を枕にする形になった鈴蘭に落ちたことで起きる気配はなく、むしろ深い眠りに落ちたようだった。

しかし、なんという状況だろうか。視線を落とせば天使の寝顔が見れるなんて。
なんだか久しぶりに満ち足りた気持ちになり、彼の髪を軽く撫でた。


そういえば彼の兄はよく僕の髪を撫でていたな、と思い出した。
匂いをかいだり時折口付けたり、何が楽しいのかは理解しかねたが、その触れる手の優しさと温かさに僕は酷く戸惑った。
しかもそれを長い時間やっているものだから、気づくと彼が僕の髪に指を絡めたまま眠っていた、なんてこともあった。それほどリラックスしていたということなのだろうけど。


「……白、蘭」


小さな小さな声で、呼ぶ。
そして、赤みがさした頬に指先で触れた。



僕が白蘭にもこうしてあげれていたら、白蘭は今、ここにいたのだろうか。




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