ツンデレ骸の看病 甘
「うー……」
「だから言ったでしょう、風邪をひくと」
白蘭が風邪をひいた。
熱は37.5度ほど、症状は咳と頭痛。
風邪の典型ですね。
先ほど医務部の者が来てそう告げ、薬を置いていった。
「だってちょっとくらいならいいかなって…」
「何度ももう一回、もう一回と言ってきかなかったくせに」
僕はうんざりして溜息をついた。
昨日のことだ。
白蘭がどこから聞いてきたのか露天風呂に入ってみたいと言って、前々から作らせていた露天風呂が完成したのだ。
大喜びした白蘭は嫌がる僕を無理矢理連れて入浴した。
まあ嫌がると言っても、露天風呂はそれなりに気持ちが良かった。
景色も良かったし、人工とは思えない温泉も上々だ。
問題はその後なのだ。
「まさかあんなところで興奮するなんて…」
「でも骸クンも良かったんじゃないの?」
「………っ少しだけですよ、と言っただけです!誰が何回でも、と言いました!!」
きっとのぼせていたのだと思う。
だからあんな誘うような文句を吐けたのだ。
……思い出すだけで恥ずかしい。
「…良かったことを否定はしないんだね!!」
「病人は黙ってなさい」
露天風呂をつくらせたのはこのビルの最上階。
それだけ高度が高ければ勿論寒さなんて季節は関係なくて。
幸い、それからしっかり湯船につかった僕はこのように元気だが、白蘭は既に飽きてしまい先にあがっていた。
それで、朝起きたら彼の顔が赤くて、
…今に至る。
「もう、意外と病弱なんですね」
「んー、まあね…けほ、」
「薬飲みますか?」
もらった紙袋をみせると、先に朝ご飯が食べたい、と言われた。
いそいそと内線でお粥を頼む。
「えー、お粥? 地味だよー…」
「この間日本食が食べたいと言っていたじゃないですか」
件の露天風呂といい、こいつはなんだかんだで日本マニアだ。
僕も日本は好きだから嬉しい。
が、だからといって花魁プレイだのセーラー制服プレイだのは違う気がする。
それらを僕にさせるのも違う気がする。
いつまでも落ち着かない白蘭を無理矢理寝かせ、布団をおおざっぱに掛ける。
間もなく頼んだものが届いた。
珍しく大人しくしていた白蘭を起こし、お粥をお盆ごと渡す。
「うわ〜………やっぱり地味」
「作った人に失礼でしょう」
「いいんだよ部下だし」
こんな奴のどこにカリスマ性を見出して部下の人たちはついてきてるんだろうか。
冷たい目でみやると白蘭はそんなに見つめないでよ、とはにかんだ。
…勘違いもいいところだ。
「貴方みたいな人が何故ボスなのか、疑問を抱いていただけです」
「実力だよ、実力」
猫舌の彼はふー、ふーとゆっくりお粥を冷ました。
表情を変えることなくそんなことを言えるのは自信か自惚れか。
後者だ、と言いきれないのが悔しい。
現にここに監禁されているこの身では。
「あちっ…中々冷めないな…骸クン冷ましてよー」
「しょうがないですねえ…」
「あとあーんしてよ」
最後の言葉は聞こえなかったことにしてお粥をかき混ぜながら冷ます。
白蘭がつまんなさそうに口をとがらせた。
「ほら冷めましたよ」
「あーんしてよ…」
「…レンジで温めてきてあげましょうか?」
「骸クーン…」
「…」
小動物のように白蘭が上目遣いで見つめてくる。
いつも可愛さのかけらもないくせに、こいつは甘えるのがずば抜けて上手い。
そしてそれに負けてしまうのも常。
「…はい、あーん」
「あーんっ」
心底嬉しそうに口にする白蘭。
預けきった笑顔は恐ろしいほどの破壊力を持つ。
羞恥心はかなりのものだが、この笑顔が見れるんだったら…
、なんて考えてしまう自分は末期だ。
[
→]