ソルジャーレディと誰かのダーリン

廊下ですれ違ったのは、噂によく聞く特上級。



ソルジャーレディと誰かのダーリン



「ん?」

数歩ほど歩いたところで、彼女はこっちを振り返った。

「んんん?」

「……なんですか。」

「キミもしかして、陸上部の所木クン?」

「そうですけど……なんであなたみたいな有名人が、僕のこと。」

「んー?各部の主将の間じゃあ有名だったんだよー、陸上部無名のエース……ところで、背中に背負ってるの、何?」

「ああ……知り合いです。市羽目って言うんですけど。」

「テロリストだったの?」

「まあ。親友なんで。ぶん殴って気絶させて、ちょっと話を聞こうかなって。」

「___へぇ。容赦ないねぇ。」

「敵ですしね、一応。それより、」

「んー?」

「剣道部の特上級が、こんなところで何してらっしゃるんです?」

「んー?知ってるんだー私のこと。」

「そりゃあアレだけ、表彰されてれば……」

僕みたいになんとなく日々を過ごしてるヤツでも、覚える。

誰かが言っていた。彼女は初級中級上級で言うなら、特上級。

特上級のソルジャーレディ。

僕は彼女に向き直った。

「改めまして、中等部二年一組陸上部所属、所木和弘です。」

「ん、高等部U年B組剣道部主将、士道十緒美。よろしくー、美少年。あ、そういえば君。」

「なんですか?」

「どうして試合でないのー?」

「……なんか面倒じゃないですか?そういうの。」

「おいおい、全ての大会で皆勤賞の私に言うー?それ。」

「あ、すみません。」

まーいいよ、と士道先輩は快活に笑った。

「少年は注目されたくないタイプなんだろ。でも私は、キミの走り見たことあるよー。」



「ふんふふふーん♪さーて今日もいい汗かくぞー!……アラ?」

窓の外を見る。早く部活に行かなきゃなのに、私の目はそのコに引きつけられた。



「なにあのコ……美少年〜」

私が見ていたのは、校庭でクラウチング・スタートの姿勢で待っている、一人の少年。

目を閉じている。集中してんのかな?あのユニフォームは陸上か。シューズの色から察するに、中二。

正直に言おう、私はそのコに見とれていた。私は、キレイなモノやかわいいモノに目がない。特に、人間は。美しい生き物、大好物。

私は2.0以上の視力をフル活用して、そのコを観察した。

…どのパーツに魅力があるって感じじゃない。確かに、どのパーツも通常より良く出来てるんだけど……やっぱり、バランスだ。なんて整った顔だろう!全てがあるべきところに収まってる感じ。神様がちゃんと自分で創ったんだろーなーって顔。大げさ?とりあえずまつげは長い。

ついつい、外に出て近くまで寄ってしまった。陸上部のコーチの隣りに居座る。

「お?特上級が何の用だ?引き抜きならさせんぞ。」

「いーえ、先生。あのコがあんまり美人だから来ちゃっただけ。」

「あー、所木か?確かにアイツはモテるらしいからな。でも、中二だぞ。」

「んー?ああ、別に狙ってるとかじゃないですよ。私は美しい人間が大好きなの!観賞してるだけ。」

「___そうか。お、そろそろスタートか?」

「え?」

彼の先輩らしき青年が、ピストルを空に向けた。

パンッ

乾いた音と同時に、彼の身体が飛び出した。

「………わあ」

すごい。

「___速いだろ、アイツ。」

コーチは自慢げだった。

「すごいよ……見てるこっちまで、風を感じるような。」

疾走感。無駄がない。あっという間に向こうに行ってしまうような……そんな遠さを、不安を、感じさせる走り。

このコ、すごい。

私はひどく驚いた。

「大概の部のすごいコは把握してたつもりなのに……何で?あの速さならインターハイで優勝だって、」

「……ああ、それなんだが。」

コーチはぽりぽりと頭をかいた。

「アイツ、目立つのが嫌いらしくてな。いくら大会に出るよう勧めても『僕はひっそりと生きてたいんで』とか何とか言って、棄権しちまうんだよ。」

「もったいなーい。」

「だよなぁ。」

フー、と寂しいため息をついた先生をよそに、私は密かにテンションを上げていた。

(へぇ、そっけない……クール、いいね。)

そういうコ、大好き。

小さく呟いて、部室に向かう。覚えとこ、陸上部中二、所木クン。

その二日後だった。陸上中二無名のエース、の噂を、主将仲間から聞いたのは。



「んふふ……」

まさか、こんなところで会えるとはねぇ。

「___士道先輩、先輩にこういうこと言うのはなんかアレなんですけど、ちょっと気持ち悪いですよ。」

なんですか、一人で笑って。

所木クンはいぶかしそうに私を見た。

「んー?あ、ごめんごめん。いやあ、やっと会えたなって思ってね。」

会いたかったよー所木クン。

そう言うと、所木クンは無表情に戻って、そうですか、と言った。

「とりあえず、僕は市羽目背負って住処に戻りますけど……先輩は?」

「んー?そうだなー、仲間に入れてくれると嬉しいなっ、少年。」

「まあ、士道先輩がいて下さったら百人力ですけど……でも、いいんですか?」

「へ?」

「僕の仲間、頭おかしいヤツばっかですけど。」

「___今更さ。」

「……ですよ、ね。」

「あ、それと。」

「はい?」

「十緒美と呼んでくれないか、所木クン?」

「___了解です、十緒美先輩。」



「おかえりダーリン、遅かったわね……あら、誰その泥棒猫。」

「開口一番それか、御影。御影だって知ってるでしょ、剣道部の」

「「特上級」」

「ほらやっぱり知ってた。」

「……士道先輩。」

「んー?なあに美少女御影ちゃん?」

「そう呼ぶのやめて下さいよ……先輩、いくら先輩といえども、」

そこで、私の隣りにいる彼を引き寄せて。

キス。

ぷはっ、と御影ちゃんは唇を離した。

「私の和弘は、渡しませんよ。」

「……別に狙ってないでしょ先輩は。」

「んー?そうとは限らんよー少年。」

「ほらやっぱり!」

「みーかーげ、こんなことしなくたってさ。」

今度は所木クンが御影ちゃんを引き寄せた(その時背負っていた市羽目とやらは容赦なく落とした。ひどいなオイ)。

まあ、その後したことは言う必要はないか。

「心移りはしないタチでね……安心してよ、僕は御影だけ。」

へぇ…クール無表情な美少年かと思ってたら、

こんなエロい顔もするとはねぇ。

ますます気に入っちゃったよ……このバカップル二人を引き離すのは難しそうだけど、でも、負けないわ。

「私は、美しいものを誰より愛してるんだから。」

「「は?」」

「いーえ、こっちの話。」