気付けば寝ていたらしい。
ヒメルの鳴き声で私は目が覚める。
「…おはよう、ヒメル」
体を起こしてヒメルに挨拶をする。
まだ、早朝なのか、窓の外はほのかに明るい程度だ。
ヒメルがベッドから降りてカリカリとドアを引っ掻く。
開けて欲しいのかな。
でも、蓮先輩まだ寝てるかもしれない…
こっそり、音を立てないようにゆっくりとドアを開けた。
リビングに行くとソファには人一人分の膨らみがある。
…まだ寝てるみたい。
邪魔しちゃいけないと側に行こうとするヒメルを慌てて抱き上げた。
そろりとソファに近付いてしゃがめば、蓮先輩は静かに寝息を立てている。
その寝顔は普段より幼く見えて。
うわぁ、私今絶対すごい貴重な経験してる…!
レンの時はほとんど見ることが出来なかった姿にテンションが上がってしまう。
同時にちゃんと眠れてるんだなと嬉しくなった。
そんなことを思っているとごそっと蓮先輩が動いて私の心臓が跳ねた。
起きたわけじゃないみたいでほっとする。
「……ソラ……」
呟かれた言葉に私は固まった。
私の名前?…どちらの?
すると突然、蓮先輩の手が伸びて来て私の腕を掴んだ。
そして翠の瞳と目があった。
「…お、おはようございます」
「お、はよ……空?」
びっくりしながら声をかけると体を起こした蓮先輩は寝惚けているのか怪訝そうに私の名前を呼ぶ。
数秒後状況を理解したのか、ばつが悪そうに目を逸らして私の腕を離す。頬が微かに赤い。
…珍しい表情が見れた。
「あー…悪い」
「大丈夫ですよ…夢でも見てたんですか?」
私の問いに先輩は一瞬どこか切なそうな表情を見せた。
「…ああ。いつも同じ夢を見るんだ」
「同じ、夢?」
どくん、と心臓が鳴る。
まさかと思った。
「…いろんな街を回って旅している夢」
「……」
「それは、俺一人じゃなく誰かと一緒に旅をしてる。けど、いつも目が覚めるとその誰かの顔は曖昧で覚えれないんだ。いつも、見てるのに…」
所詮は夢の話だな、と蓮先輩どこか寂しげに笑う。
ああ、やっぱりそうか。
彼は前世の記憶を夢で見ているんだ。
でも、それは目が覚めたら何も残らない、それくらい儚くて脆いもので。
「…ねぇ、先輩」
「…どした?」
「もし、その子が…」
「その子が?」
その子が目の前にいるとしたら。
なんてこと言えるわけない。
蓮先輩を混乱させてしまうだけだ。
「ごめんなさい。なんでもないです」
「…そう……朝飯食うか」
そう言ってソファから立ち上がって先輩は別の部屋に入っていった。
もし、私も蓮先輩と同じように私の色を持ったままだったら…ソラだとすぐに思い出してもらえたのかな。
…違う。
「…そうじゃないの」
嫌だな、いつの間にかこんなに欲張りになってる。
私は、蓮先輩に思い出して欲しいわけじゃなかったのに。