夢を見ていた。
いつもの夢かと思ったが、いつもはある周りの風景が今回は真っ白だった。
違う夢、というわけでもなかった。
目の前には紅い髪と瞳のあいつがいたから。
どういう状況だ。
そいつは笑っていた。
懐かしそうに、嬉しそうに、悲しそうに。
その笑みはどこかで見たことある気がして。
口を開くが声が聞こえない。
動きから俺の名前が呼ばれているんだと分かった。
『ーー』
俺は、お前を知っているのに。
知っているはずなのにお前が誰か分からない。
ただ離れたくないと俺は手を伸ばして、彼女の腕を掴んだ。
そこで目が覚めた。目の前に誰かいる。
「…お、おはようございます」
「お、はよ………空?」
ヒメルを抱えてびっくりしたような彼女を見ながら体を起こす。
なんで空が、と思ったのもつかの間、自分が彼女の腕を掴んでいることに気付いてはっとする。
…やってしまった。
「あー…悪い」
「大丈夫ですよ…夢でも見てたんですか?」
そう問われ、一瞬言い淀んでしまう。
誰かにこれを言うのは前に話の流れで二人の友人に話した以来か。
まぁ、空ならいいか。
「…ああ。いつも同じ夢を見るんだ」
「同じ、夢?」
そういえば、前は同じ夢といっても間隔が空いていたが、ここ一ヶ月はほとんど毎日だなとぼんやり思いながら続きを話す。
「…いろんな街を回って旅している夢」
「……」
「それは、俺一人じゃなく誰かと一緒に旅をしてる。けど、いつも目が覚めるとその誰かの顔は曖昧で覚えれないんだ。いつも、見てるのに…」
今回は少し状況が違ったけど、やっぱり顔は覚えていない。
所詮は夢の話だな、と言えば空はどこか悲しそうな顔をする。
「…ねぇ、先輩」
「…どした?」
「もし、その子が…」
「その子が?」
尋ねれば、空ははっとしたような顔をすると笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。なんでもないです」
「…そう……朝飯食うか」
そんな深刻そうな顔をしてなんでもないか。
そう思ったが、これ以上聞くことが出来ず俺はリビングを離れた。
「…あ」
そして気付く。
夢で見た誰かの笑顔。
たまに見せる空の表情と似てる気がした。