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ひたすら頼んでみる(君に騎乗位してほしい5つの作戦)


清々しい早朝の風が窓の隙間から事務所内を駆けていく。青々とした青空をそこから見上げたナマエは気持ちよさそうに伸びをすると、すぐそばに置いていたモップを掴んでバケツの中の水に何度か浸した。



「ほんとは雑巾で掃除した方が汚れも探しやすいんだけどなぁ…」



バケツからモップを取り出したナマエは何やらぶつぶつ言いながら、でもにこにこ幸せそうに笑いながら床のタイルに沿って順番に掃除していく。たくさんの水に少しだけ混ぜた洗剤のおかげで床はきらきらと輝いて、事務所内の空気も洗剤の香りに包まれている。



「んー…それも悪くないな、」



そんなナマエを余所に自分専用の椅子にふんぞり返る様に腰かけたダンテは、その長い脚を机の上に放り出して何やら読書をしている。雑誌のようにも取れるその大きさは、しっかりとカバーがされているせいで何の雑誌なのかはさっぱり分からない。


ダンテが何を考えているのか分かってしまったナマエが軽くため息を吐き出しながらモップを持ち直すと今までダンテに背中を向けるようにしていた姿勢をくるりと翻した。



「もう、ダンテさんはすぐそういうことばっかり」
「まぁまぁ。久しぶりにウチにナマエが来てて舞い上がっているのさ」



ナマエとは毎日のように会ってるけどな。付け足して視線だけを本から離したダンテにナマエはたまらず視線を逸らした。不敵な笑みを浮かべるダンテの透き通るような青い瞳をナマエはどうにも見つめ返すことが来できない。


いつまで経ってもこの男は変わらない。それどころか色気だけが増してきているような気がする。赤くなる顔をモップを抱えながら気付かれないように両手で押さえた。



「…も、もうすぐそこも掃除しますからね」
「オーケー」



にっこりと微笑んだダンテは軽く頷いて先程まで見ていたページを捲りながら視線を本へと戻した。


再び床掃除に戻ったナマエの耳をダンテの短い口笛がくすぐる。何の本を見ているのか大体わかった気がしてナマエはがくりと両肩を落とした。カバーをしているということは少なからずこちらに気を使ってくれているのだろうが、そういう本を見ているときのダンテの短い口笛は癖になっているようで今ではすっかりダンテが何を読んでいるのかわかるようになってしまった。



「……ダンテさん、」
「あっ!オイ!」



どこか嬉しそうに口の端を持ち上げているダンテからナマエは雑誌を取り上げると、そのページに目を向けた。


案の定そこには豊満な二つの山を揺らしながらつやつやした艶やかな唇で瞳を潤ませながら快感に表情を染める女性の姿が多く映っていた。



「…やっぱりー…」



眉間に皺を寄せるナマエに慌ててダンテが机に乗せていた足を下ろして雑誌に手を伸ばす。すぐに奪い返すことが出来た雑誌を畳んで机の端に置いたダンテは複雑そうな表情で席に座り直すと深く息を吐き出した。そんな彼の様子を見ていたナマエが苦笑いして腰を屈めながら椅子に腰かけるダンテの視線に合わせた。



「ダンテ、わたしダンテがこういう雑誌を見ることはそんなに気にしてないんですよ」
「…へえ?」



ただ自分と同じ場所に居る間だけは見てほしくないだけで。机の端に申し訳なさそうに置かれている雑誌を指さしたナマエはにこりと微笑む。思っていたこととは全く反対の反応が彼女から返ってくるとは思っていなかったダンテは珍しいといった様子で机に乗り上げるようにした。



「だって、ダンテはわたしのことが好きですもん。ね?」
「…自信満々だな」
「違うんですか?」



可愛らしく首を傾げて見せたナマエに、いじわるな笑みを返していたダンテの頬の筋肉が一気に緩んでだらしない笑顔を作る。窓から入り込む風が一度だけふわりとふたりの髪を遊ぶ。すっかり床も、床を掃除していたモップも乾いてしまったようだが石鹸の香りは未だにふたりの鼻孔を微かにくすぐっている。



「違わない」
「キモい」



語尾にハートマークでも付きそうな甘く少々だらしのないダンテに、間髪入れずにドスの聞いた声で突っ込みが入った。まさかと目の前で微笑んでいたナマエは今は苦笑いを浮かべてふるふると首を横に振った。そうだよな、そんなわけないよな。と胸をなでおろした後、彼女の後ろでちらつく跳ねた黒髪を見つけてダンテは深く眉間に皺を寄せた。



「…レディか」
「ちょっと近くを通りかかったから寄ったのに、とんだ仕打ちだわ」
「仕打ちってなんだよ!」
「レ、レディさん。いらっしゃい」



わざとらしくため息を吐き出したレディは振り返ったナマエに近寄って軽く抱き付くと「まあナマエが居たから来て正解だったかしら」とにんまりと笑った。



「…ま、お楽しみみたいだったし。あたしもまだこれから仕事の報告があるから失礼するわ。ナマエと話したかったけどまた今度ね」
「あーあー、もういいから早く帰ってくれよ。ナマエとの貴重な時間なんだしな」
「もうダンテ!…レディさんまた今度お会いしましょう。久しぶりに会えてよかったです」



机に身を乗り出したまま片手で動物でも追い払うようにしっし、という仕草を見せるダンテにレディはちょこんと舌を出してナマエから手を離して身を翻すと颯爽と事務所から去って行った。



「あーあ。なんでアイツ気配殺してくるんだよ。全然気付かなかったぜ」
「ふふ、レディさんいつも突然だからびっくりしますよね」



モップを持ち直してレディに続いて身を翻したナマエは床掃除の為にモップを濡らしにバケツが置いてある部屋の隅に移動する。掃除の為だからと身にまとったエプロンのフリルがふわふわ揺れる。腰の位置で結ばれたそれを見ながらふと、さっきまで食い入るように見つめていた雑誌の一部の写真を思い出してごくりとダンテは喉を鳴らした。



「…なぁ、ナマエ?」
「はい?」



ちゃぷちゃぷと水の揺れる音がする。若干濃くなったように感じる石鹸の香りに、ざわつく心臓が少しばかり邪魔だ、と言っているような気がする。ダンテに体ごと振り向いたナマエはもう一度首を傾げて返事を返した。



「今夜は俺に乗ってみないか?」
「…………え?………い、いやです!」



一瞬ダンテが何を言っているのか分からないといった様子のナマエがその言葉の意味を理解したらしくぐんぐんと赤くなって行く顔のまま力を込めて目いっぱい否定したものだから、どうしようもなくダンテは自分の心がざわついたのを感じた。椅子から立ち上がって一気に彼女の居る場所まで移動してやるとふるふると震えているようにも見える彼女の手を、ダンテはそっと包んでにっこりと微笑んだ。





(なあなあナマエー?)
(いやったらいやなんです!もう!しつこいですダンテ!)


お題提供 : だいすき。「君に騎乗位して欲しい5つの作戦」

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