「なにかお探しですか?」
「………えっ!?」
不意打ちだった。
柔らかくかわいらしい聞き覚えのある声がして、思わず両肩が信じられないほど持ち上がった。
慌てて振り向いてみると、脳裏を横切った人物とは違う女性がにこにこと微笑みながら立っていた。
「すみません、とても真剣に選んでいらっしゃるみたいだったので…」
プレゼントですか?
おずおずと尋ねる女性はよく見ればピシッとした服を着ていて、マグナスがいるこの店の店員だとわかった。
部屋中に綺麗に並ぶショーケースが照明の光を浴びてキラキラと輝いている。
その中で同じく、それ以上に輝く小さなそれらに、マグナスはもう一度視線を戻した。
「……誕生石ですか?」
「いや、その、…!!」
見る見るうちに赤く顔を染めていくマグナスに、店員の女性は小さく笑ってみせた。
「すみません、なんだか本当に、すごく真剣でしたから…とても大切なひとなんですね」
まるで自分のことのように幸せそうに言う女性に、マグナスも思わずはにかんで小さく頷く。柔らかい彼女の雰囲気はやはりどこか彼女に似ている。
自然に口角が上がるのをそのままに並ぶショーケースをちらちらと見ていると、ちょうど彼女の真後ろあたりに飾られたリングが目に留まった。
「……、それ…」
「え?」
マグナスが彼女より更に先にあるリングを指差して見せると、彼女は一瞬慌てたようにその場を離れて後ろを確認した。
「こちらですか?」
「ああ」
女性にショーケース越しに指を指してもらって軽くマグナスが頷くと、ふわりと笑った彼女はショーケースの反対側へと回り込んだ。する、と生地の擦れる音がしてショーケースの中から移動するそれに、なぜか息をのんだ。
そのままショーケースの上に乗せられた指輪は、とても大切そうに別の箱にそっと置かれている。
「指のサイズ、おわかりですか?」
「……あ、」
一瞬渋い顔をしたマグナスがすぐに女性の手元を見て何かに気が付いたようにぱっと明るくなる。女性が軽く首を傾げると、若干。本当に若干、マグナスは嬉しそうに口を開いて彼女の指を指差した。
* * *
王都ウィニアのちょうど後ろ側には彼女が見つけた花畑が広がっていて、そこから運ばれてくる花の香りがほのかに香る。
家も知人も家族も、全部ぜんぶ投げ出してここのベッドで静かに寝息を立てている彼女の顔を見て、マグナスがふ、と表情を和らげた。なんとなく頬に触れて長い髪をなでると、くすぐったそうに彼女は身じろぐ。
「・・・・ナマエ」
心地良さそうに眠っている彼女には少々悪いと思いながらも声をかけると、眠りが浅かったのか、すぐにナマエは目を覚ました。
「・・・・・あ、れ・・・マグナス・・・」
「おはよう」
「・・・・・っ?!あれ、わたしいつの間に寝てたの!?ご、ごめんなさい!ベッド、占領しちゃってた!!」
わたわたとベッドから立ち上がってシーツのシワを伸ばそうとする彼女の後姿にまた頬が緩む。
ああ、どうしてこんなに。
未だに焦ってわたわたしているナマエをたまらず後ろから優しく抱き締めるとまるで石のように動かなくなってしまった。
「あ、ま、マ、マグナス?」
「ナマエこれ・・・」
花の香りと同じくらい甘いナマエの香りに思わず目を閉じる。
細い彼女の指に、大事に包装された箱の中から取り出した指輪をそっと通すと、それはちょうどいい位置でぴたりと止まった。
「よかった、ぴったりだ」
指輪の通ったナマエの手を自分が見やすい位置まで持ち上げる。日の光を浴びてきらきら光るそれに、我ながらよくやったな、なんてこっそり思う。
「・・・・わ、・・・これ、マグナス、指輪・・・!!!」
どうしたの?と嬉しそうに頬を緩ませる彼女に、釣られてマグナスも頬を緩ませた。
何度も何度も手を高く持ち上げて指輪を見つめるナマエ。
「喜んでくれたみたいだな」
「すごく嬉しい!ありがとうマグナス!」
こんなに素敵なプレゼント。
マグナスの腕の中で未だに指輪から視線をはずさないナマエに笑みがこみ上げてしまう。
窓の外から入り込む柔らかい風が、花畑の香りを運んで鼻をくすぐっていく。風に遊ばれるようになびく##NAME1##の髪が頬をかすって、思わず目を細めた。
フラワーシュガー
(好きだよ)
(わたしも!)