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終わらない恋になれ


「…あれ?」


子供たちが寝静まった教会を歩くと履き慣れた靴がコツコツと小気味良い音を立てる。

子供たちの朝は早いのだから、自分も早く眠りにつかなくては。…ああ、でも確かまだ読みかけの本が棚に飾りになってしまっているからそれも片付けてしまわなければ。

ぐるぐるとやることばかりが頭に浮かんでは消えていく。さわさわとどこからか入り込んできている夜風に気付いて顔を上げてなんだ、そういうことかとナマエは微笑んだ。


「ダンテ」
「よー」


気だる気に右手を真っ赤なコートに突っ込んで、もう片方の手を少し持ち上げて言うダンテにナマエが小走りで駆け寄ろうとすると、慌てたようにポケットから手を抜き出して"待った"のポーズを取られてしまった。

なぜ?首を傾げて自分よりだいぶ背の高いダンテを見上げると、申し訳なさそうに眉を寄せたダンテの表情が薄暗闇に浮かび上がった。


「…や、俺、仕事帰りのままで来ちまったから、その…返り血…とか、」


薄暗闇に浮かび上がったダンテの全身を見てみても、真っ赤なコートが水に濡れたようにしか見えなくて、ナマエはふわりと微笑むとダンテの静止を余所に歩き出した。


「なら、コートを脱いでください。綺麗に洗濯したら明日には乾いてますよ。それから、ダンテはお風呂に入ってきて。気分転換をしましょう」


無理やり袖で拭ったのか、左頬に掠れたような返り血を見つけてポケットから取り出したハンカチで拭いてやる。

こびりついて取れないそれに、眉を寄せたナマエが小さく「お疲れ様でした」と微笑んだのを見て、手早くコートを脱ぎ捨てたダンテは彼女を強く抱き締めた。


「…ナマエ、…ナマエ」
「…はい、ダンテ」
「わり、床、もしかしたら血…付くかもしんね…」
「そんなの床掃除で一瞬で消えちゃいますよ」


より一層強くなるダンテの腕の力にナマエも返事をするように広い背中を抱き締める。ダンテから短く息が吐き出されて首筋がふるりと震えた。

精一杯背伸びして背の高いダンテの頭を撫でると、月の光を浴びたさらさらとした銀色の髪がきらきらと輝いていて。


「夕飯は食べました?」
「まだ…」
「じゃ、お風呂から上がったら夕飯にしましょう。美味しいスープ作ったんです。ピザばっかりじゃ栄養偏って仕方ないですよ」
「…はは、」


自分に釣られて笑うナマエの頬に優しく唇を落としたダンテはそのままひょい、とナマエを持ち上げると、足元で無造作に転がっていた自分のコートを拾うとバスルームがある部屋へ向かって歩き出した。


「…ダンテ、全部予定が狂います」
「いいだろ?風呂くらい一緒に入ってくれよ」


すっかりいつもの調子を取り戻したダンテに、気付かれないようにナマエが笑って、横で揺れる銀色の頭にお返しとばかりに唇を落とした。


「寝る前は読みかけていた本でも読みましょうか」
「あー、眠くなるからパスだ」
「いいじゃないですか、ゆっくり寝られて」
「俺は寝たくない。ナマエといいことしたい」
「わたしはいいことしたくないです。本が読みたいです」


わざとらしくため息を吐き出して言うと、わかりやすいくらいに唇を尖らせたダンテがいて我慢できずにナマエは噴き出した。


「…嘘ですよ。わたしもダンテといいことしたいです」
「…本気で言ってるのか?」
「はい」


顔を覗き込んでくるダンテに笑いそうになって口元を抑えたナマエはそれに気付かずほのかに嬉しそうなダンテの頭をそっと撫でた。

ダンテからほのかに香る汗の匂いに、横抱きにされたままナマエはゆっくりと瞳を閉じた。




(あ、でもスープも飲むからな)
(はい、わかってますよ)


お題提供:確かに恋だった

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