「ナマエー」
目が覚めてシーツを探って、いつもの感触に浸ろうと思ったのにどれだけ手を動かしても目当ての物には辿り着けずにゆるゆると体を起こした。
どこに行ったのだろうと考えるよりも先に、窓の外からは楽しそうな子供たちの笑い声が聞こえてベッドからだらしなく体を伸ばして窓を開けると、そこには案の定目当てのナマエがいた。
「あっ、ダンテ!」
真っ白なシーツを広げながら子供たちに囲まれて振り向いたナマエはにこにこと微笑みながら片手を軽く振って見せた。釣られてゆるゆるとダンテが手を振ると、満足したのか広げていたシーツを物干し竿に引っ掛ける。
「…起こしてくれりゃよかったのに」
開けた窓をそのままに、真後ろに倒れたダンテはベッドに深く沈む。遠くから聞こえる子供たちの笑い声と一緒に、ナマエの笑い声も混ざって聞こえてきて思わず頬の筋肉が緩んだ。
それにしても穏やかな天気だ。窓から差し込む朝日がこのところ珍しく心地良い。町外れにひっそりと佇むこの教会で、孤児たちの面倒を見ながら穏やかに暮らしている彼女に出会ってからだろうか。不思議とそう思える自分が嫌いではない。
しばらくして窓の外から子供たちの声が聞こえなくなったと思ったら、元気に寝室のドアが開けられた。
「ダンテー!」
ドアを開けて真っ先に飛び込んできた男の子のノアを体を起こして抱き留めてやると、嬉しそうにすり寄ってくる。
そんな姿に微笑んでいると、続けて寝室に入ってきたナマエが洗濯籠を持ったままにこにこと微笑んでいた。
「おはようございます、ダンテ」
「ああ、おはよう。起きたら隣にいないからどうしたのかと思った」
「ふふ、ぐっすり眠っていたから。なんだか起こすの忍びなくって」
ノアの頭を撫でながら言うダンテにくすくすと相変わらず笑みを崩さないナマエがどうしようもなく可愛い。
「ダンテのねぼすけー!」
「うるせえ」
男の子の頭を撫でていた手を少々強めにしてぐりぐりと撫でまわしてやると、すぐにノアから抗議の声が上がるが気にしないでぐりぐりしてやる。俯いて表情は読めないが、声からして喜んでいるからまあいいのだろう。
様子を見ていたナマエがしばらくしてふたりに近付くとダンテの手に重ねるように自分の手を置くと、ノアと同じ視線になるようにしゃがんでゆっくりと口を開いた。
「…さぁ、ノア。朝食の準備をするからみんなを呼んできてくれる?」
「あ、うん!今日はなににするの!?」
「うーん、ひみつ。みんなが揃ったら一番に教えてあげる」
「はは、ほら早くあいつら呼んで来いよ。俺もナマエもすぐ行くぜ」
納得したのかダンテから飛び降りてほかの子供たちを呼びに駆け出していくノアの後ろ姿をふたりで見送ってどちらともなく向き合うと、ダンテがいたずらに微笑んでナマエに手招きをした。
「あー…、ナマエー…」
首を傾げながらダンテに歩み寄ると、長くて逞しい腕にやんわりと抱きしめられてしまった。
耳元で聞こえる、安心したようなダンテの声にナマエが目を細めると右手に持っていた洗濯籠をできるだけゆっくり手から離して代わりにダンテを抱き締め返した。
「朝からうるさくてごめんなさい」
「いや、いいよ。案外好きかもしれないな」
首にかかる綺麗なナマエの髪をそっと手で避けて白い首筋に顔を埋めなおす。
ほんのりと花が咲いたように彼女の白い肌に赤が浮かび上がっているのを見つけて嬉しくなって抱き締める腕を強くすると、ほのかに心地良い香りが鼻孔を擽った。
「…ナマエ」
「はい?」
「んー、いーにおい」
「…?洗剤かな?」
「かもー」
すりすりと唇を軽く寄せるダンテに思わず声がこぼれそうになってナマエは苦笑いを浮かべてダンテの背中に回していた片腕をゆっくりと彼の頭に移動させた。
「もう、ダンテ。寝ぼけてます?」
「おー、まだねみー」
「もう一眠りします?朝食は後からでも準備できますよ」
「…や、起きる。ナマエとあいつらと朝メシ食う」
ナマエを抱き締めながら片手でベッドの上に無造作に脱ぎ捨てたシャツを掴んで適当に羽織るとほのかにピンク色に染まったナマエの頬へそっとキスを落とした。
この身は君しか愛せない
(こんな幸せを知ってしまったら)
(もう君しか愛せない)
お題提供:確かに恋だった