柔らかい風と一緒に、舞い上がる色とりどりの花びら。
彼女の好きな色はどの色で、すきな花はどの花だっただろうとその場に寝転んで空を舞っている花びらを見つめてふと思った。
「そう言えばまだ、帰ってきたって伝えてないな…」
ゼノビアへ向かって、こちらの状況を報告して帰ってきてまっすぐここへ来てしまった。
ベッドへ倒れ込むように、ばたりと倒れたこの場所は、花の香りなのかほのかに甘い香りで包まれている。
この場所を見つけたのは紛れもないナマエだ。
砦の中のどこにも居なかった彼女を探して歩き回ったときにここで横になっている姿を見つけて、初めてこの場所の存在を知った。
暖かい太陽の光に、風に、花の香りに。どれもが心地良くて自然とまぶたが重くなるのを感じた。
「……あれ、マグナス?」
砦を出て、遠くを見渡せる場所まで行こうとして足を止めた。
お花畑の真ん中で葉っぱや花に隠れてよくは見えないけれど、風に遊ばれている藍色のあれは、きっと。
「……やっぱり」
すぐ近くまで歩いていけば、藍色のそれはやっぱりマグナスの髪で。
きらきらと太陽の光を反射して輝いていた。
しゃがんですやすやと寝息を立てるマグナスをじっと見つめる。
(きれいな顔…。肌もすべすべ…)
見ているだけじゃなんだか物足りなくなって頬にそっと触れてみても、見た目と変わらない肌触り。
風に遊ばれるその髪もとってもさらさらで。
(……ずるいな。お手入れとかしてないのに)
くい、とつまんだ頬の肉は肉って言うより皮みたい。
「………あにひて…」
「あっ、………わっ、マグナス!」
突然口が開いたと思えば少し呆れたようなマグナスの声が吐き出されて、驚いて手をどけるとむくりと上半身を起こしてきた。
「………初めてだよ、こんなことされたの」
「え、うそ!ユミル王子にされてると思ってた!」
「………なんか嫌だな、その言い方…」
苦笑いを零したマグナスにつられて笑う。
鼻をくすぐる甘い香りに、とろけそうになるくらい幸せを感じる。きっと香りだけじゃない、けど。
「……マグナスが全然帰ってこないから心配した」
「ごめん。なんとなく足がここに来ちゃって」
いつもきれいだよな、ここは。なんて呟いたマグナスの穏やかな笑顔はぐるっとあたりを見渡して遠くを見つめる。
そんなマグナスがやけにきれいで、わたしの胸がぎゅっと締め付けられたような感じに苦しくなる。
風に揺れるマグナスの藍の髪とか、服とか、なんだかもう全部、ぜんぶ幸せで。愛しくて。思わず飛びついた。
「わっ!なんだよ、」
「ふふっ」
少し困ったふうに笑うマグナスに力いっぱい抱き付くと、優しく頭を撫でてくれて、ああやっぱりこの人がすきなんだって大きな手のひらを感じながら思う。
風になびくブルークロスに顔を埋めて瞳を閉じたら、少し早いマグナスの鼓動に嬉しくなって思わず「大好き!」なんて叫んでしまった。