ZZZ | ナノ

はやくげんきになぁれ。


薄暗く静かな空間に、あちこちには積み木や可愛らしい本が散らばっていた。


ドアを開けて一度当たりを見渡していたマグナスは音を立てないようにしてドアを閉めると急ぎ足で部屋の奥にあるベッドへと足を進めた。



「ナマエ」



ベッドの隣で椅子に腰掛け心配そうな表情を浮かべていたナマエの背中にそっと囁くようにマグナスが声を掛けると、一瞬ぴくりと両肩を揺らしたナマエは、ゆっくりとこちらに振り返ったあとその場を譲るように立ち上がった。


大丈夫、と片手をあげたマグナスにナマエは微笑んだが、座り直そうとはせず彼に寄り添うように立つとまた心配そうに眉を寄せた。



「傍に居てやれなくてすまない…。医者はなんて?」
「軽い夏風邪だって…。気にしないで。駆けつけてくれてありがとう」



言って力なく微笑むナマエを少しでも元気になるようにと微笑んで彼女の頭を撫でたマグナスは、たて膝をした状態でベッドの隣にしゃがみ込んで大きなベッドに沈む小さな身体を見た。



「…やっぱり、熱いな…」



荒く呼吸する音が微かに聞こえる。真っ白なタオルを退けて小さな額に手を乗せて熱を確認して見て、想像以上だ、と呟いた。



「ナマエはなにか食べたのか?」
「あ…、そういえば何も…」
「少し休憩も兼ねてなにか食べて来るといいよ。ずっと付きっきりだったんだろ?」



申し訳なさそうに服の裾をつかんで吃るナマエに椅子から立ち上がったマグナスは優しく抱きしめるとそのままもう一度彼女の甘栗色の髪を撫でた。



「…いつもひとりでありがとう。こんな時くらいは俺に任せてくれ」
「…マグナス…」



髪を撫でていたマグナスの手がするりとナマエの頬に下りる。

ふわりと香るマグナスの香りに目を細めたナマエはふるふると首を左右に振ると、きゅ、とマグナスにしがみついた。



「…一緒にいたい…」
「…ああ、そうだな…」



軽くキスを交わしてベッドに椅子をもう一つ並べて、まだ熱いアイネアスの額に、マグナスが新しくいれて来てくれた氷水で濡らしたタオルをかけてやると、苦しそうだったアイネアスの表情も少し和らいだように見えた。



「…ナマエ」
「ん?」



ふいに、隣に座って同じように眠るアイネアスを見つめていたマグナスが口を開いた。


愛おしそうにアイネアスの頭を撫でるマグナスは身じろいで自分の手をゆるく掴んで来たその小さな手を握り返す。



「実は少しの間休暇をもらえることにたったんだ。アイネアスが元気になったら少し出掛けようか」
「い、いいの…?」



途端に嬉しそうに頬を緩ませたナマエはおずおずと問いかけると、マグナスは微笑んで深く頷いた。



「当たり前だ。今夜は俺がアイネアスを見るから、眠くなったらナマエはしっかり寝ておいで」
「…う、ん……。ありがとう、マグナス」



柔らかく微笑んだマグナスになにも言えなくなって頷いたナマエに、満足したようにマグナスも頷いた。


自分の傍を離れて休みに行ったのかと思いきや後ろからかたかたと遠くの椅子を引っ張り出してきたナマエにぎょっとしたマグナスが手伝おうと立ち上がるが、やんわりとナマエに断られた。


「あの、もう少しだけ一緒にいたいんだけど…。でもほら。アイネアスもマグナスと離れたくないみたい」
「…あ、」
「ふふっ」


小さな体のナマエには少々大きすぎる椅子を引っ張らせているのは気が引けるが、今は彼女に任せるとしよう。程なくしてマグナスの隣に椅子を並べたナマエは満足そうに微笑むと何時もより とすん、と少し大きな音を立てて腰掛けた。


「不謹慎なんだけどね」
「ん?」


やんわりとした微笑みでナマエがアイネアスを見つめながらつぶやいたのを、同じように微笑んでいたマグナスが見つめると、それに気付いた彼女は照れ臭そうにはにかんだ。


「嬉しい、かな…。アイネアスのためにふたりで傍にいて何かしてるってことが」
「…ナマエ…。そうだな、…俺も、嬉しいよ」


甘栗色のナマエの髪にもう一度触れたマグナスが、そっと彼女を抱き寄せる。甘い花の香りがほのかに香ってマグナスの心をそっと癒した。

ナマエを抱きしめる腕とは反対の手を握るアイネアスも、少しだけ表情を緩ませたような気がした。








back

prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -