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生まれたばかりの赤ん坊が、専用の寝台ですやすやと穏やかな寝息をたてている。

王と王妃、女性と女性。その片方を魔術で一時的に男性に変え、いま1人の女性の腹で十月十日育まれた子ども。
いまだ未完な国ではあれど、彼女を王と仰ぐものは多く、生まれた王子は国を沸かせるには十分なものだった。

おおよそ普通の人間の生まれ方とは違う方法で生を受けたこの赤ん坊に流れる竜の血が、この子によって良くないものを招くのではと案じていた王に、何事もないことを確認して微笑めば、王はほっとしたように息を吐く。
寝顔を見守る王の顔は、父親のようでいて母親のようでいて、どこか歪なものを感じさせたけれど、それよりも彼女の顔が本当に久しぶりに見るほど穏やかで、思わず茶々を入れれば王は気分を害したように私の名を呼んだ。
けれどその声に驚いたのか、赤ん坊は弾かれたように目を覚まして、ふにゃふにゃと顔をゆがませてしまう。
ああどうか泣かないでと、今にも泣き出しそうな我が子に王が狼狽える。それもまた久しく見なかった顔だ。
いかに常勝の王であれ、赤ん坊の面倒を見るのは初めてなのだ。あやし方があまりにも拙く、見ていてもどかしいので助け舟をだす。
ひとつ杖をふるえば、色とりどりの花びらが、くるくると幼い王子の目の前を躍る。
一転してきゃっきゃと笑い出す赤ん坊を見て、王はほっとしたような顔を浮かべる。
この孤高の王に安らぎを与えるのは美しき妻でも、強き騎士でも、民の声援でもなく、もしかしたらこの子どもなのかもしれないと思った。











自分のものとよく似た形の深い青色をした、一見質素に見える、しかし極上の絹で編まれたローブを被いた少年が、相乗りしている白い馬の上で夜明けの空を見上げてわぁと歓声をあげる。
遠くに輝く星々は、藍と茜の境界の中でもなお美しく、優しく光を放ち、空を写した母親譲りの青い瞳もきらきらと輝いた。
やがて朝日が昇りざざ、ざざ、と打ち寄せる海原が暖かな緋色に塗り替えられるまで、少年はじっと見つめていた。


「すごい、凄いね!僕の部屋からじゃこんなに綺麗に見えないよ、連れてきてくれてありがとう!」


高揚した声音に、まろい頬。
彼は顔だけあげて私の顔を見上げながらとても嬉しそうに礼を言い、私はそんなに喜んでもらえるのならこっそり連れ出した甲斐があったよと、僕は笑いかけた。











その顔があまりにも穏やかなので、まるで眠っているようにさえ見える。けれど、その体は氷のような冷たさで、岩のように硬くなっているだろう。
棺に収まる彼を囲む者達の顔は暗く、特に円卓の騎士達の顔は冷静さを取り繕っているのだろうが、あのアグラヴェインでさえひどいものだ。
我を失いながら亡骸に縋る王妃を、女官が必死に宥めている。
王の顔は俯いて影に隠れているので、どんな表情でいるのか、泣いているのかすら分からない。
ありもしない、僕の心もぽっかりと穴が空いてしまったような気さえした。
彼は皆の希望の光だった。
本当に、彼は皆から愛されていた。









「エドワード、君は──」


焼き払われた世界のなかでたった一箇所、炎から免れた天文台で笑う少年を視ながら、花の魔術師は楽園の端でぽつりと呟いた。

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