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こんにちは、僕の名前はエドワード。
どこにでもいる竜になる逸話のある極めて普通の王子です。
人理の崩壊という未曾有の出来事によってカルデアに召喚されてまだ3日ばかりですが、色々驚く事がありました。
具体的にいうと父上が沢山いるとか、父上のそっくりさんが沢山いるとか、父上が沢山いるとか。
父上と呼べばざっと10人くらい振り返って来るので、青い父上だとか槍使いの青い父上だとか水着の黒い父上だとか付けなくてはならないので少し戸惑う。どの人も自分にとっては唯一無二の………複数いるけど唯一無二の父上なのです。
中でも一番動揺したのが男の父上との出会いだったりする。
両親が女性としての記憶が強い俺は最初こそ驚いたけれど、記憶の底を掘り起こすと確かに男の父上も確かにあったので、多分きっと一時的に忘れていただけなんだろう。
と、マスターに相談したら両親が女性であるとか男の父上に戸惑ったという所にマスターが戸惑ってしまったので少し申し訳なくなってしまった。
改めて思うと、我が家の家庭環境はなかなか複雑だ。
むんむんと考えていると、優しい指先が自分の頬撫でるのでそこでようやく我に帰った。
「どうかしたのかい?エドワード。随分と難しい顔をしていたけれど。」
「あ、いえ。ここに来てまだ日が浅いけれど、驚く事が沢山あったなぁ、と思い返していて。」
「そうだね……君には争い事とは無縁の生活を強いていたから驚き、戸惑うこともあるだろう。けれどもどんな時でも僕…達を頼ってほしい。父としてエドワードの隣に僕は在る。」
「はい、父上。」
金色の髪に翠の瞳。そして爽やかさを感じさせる顔立ちの青年。この方こそが男の父上である、アーサー・ペンドラゴン。
安心感を与えるその優しい笑顔に、釣られて自分を笑みを浮かべた。
「ところで父上、1つよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「何故、僕は父上の膝の上に座っているのでしょうか。」
此処は食堂で、自分と父上以外のサーヴァントもまばらながらに出入りしている。有り体に言うと、目立っているのだ。
料理を受け取ってどこに座ろうかと迷う自分に気付いてくれた父上が自分に呼びかけてくれたので近寄ると、流れるように膝の上に乗せられた。
こちらを見る人々はとてもあたたかいものを見る目を向けているので少しちょっと恥ずかしい。
「……嫌だったかい?」
「あっ、いえ違います!……ただ少し気恥ずかしいといいますか、」
しゅんと眉をさげて悲しげな表情を浮かべる父上に慌てて挽回する。決してそんな顔をさせたい訳では無かったのだ。
「……エドワード、君と過ごした時間はあまりにも短かった。それを今、ここにいる時だけでもいい、あの頃君に出来なかったことを、ここで埋めたいと思っている。」
「父上……」
きゅうと優しく抱きしめられて、頭にキスを落とされる。
ああ、本当に自分は大切にされているんだなぁと実感した。死した後に呼び起こされて、まさかこんなに幸せな時間を過ごせるなんて。
そしてアーサーの腕に包まれているエドワードは知らない。
アーサーがレイシフトから帰ってきて食事をしにきたアルトリアを見つけて「小柄な君にはエドワードを膝に抱き上げるなんてことできないだろう」と言わんばかりの優越感に浸った笑顔を向けたことと、無言無表情で聖剣を構えたアルトリアの存在を。
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