会長^2
会長軟禁された
09

頭を撫でていた手が、するりと頬に下りてきた。

少しかさかさと乾いた手の温もりが心地いい。
どれだけ顰め面をしていようとも、この手の優しさが左ノ助の本性だ。


兄が蒸発してしまってからは実の兄のように。
両親が他界してからは実の両親のように。

いつも傍で支えてくれた大事な人。


ぱちりと目を開くと、優しい眼差しが私に注がれていた。


……なんだい、その目は。


思わず赤面してしまうじゃないか。


「では、引き続き謎の男と薬の調査を右助に申し伝えておきます」

「あ、うん」


切り替え早!
中年の純情を弄んじゃないよ!


戸惑いにパチパチと瞬きをする間に、いつもの仏頂面に戻ってしまった左ノ助が端末に目を落とす。

「専務への対応は現状維持でよろしいですか」

「うん。私がこのままじゃね。変に騒がれても困るし」


あ、犯人はうちの会社の専務でした。


現社長に取り入りつつ邪魔な私を排除したいグループの、過激な一派です。
身内のごたごたで、お恥ずかしい限り。

「泳がせつつ、監視。何かしてくるようなら事前に対処。暴走するようなら手を回すこと」

「承知しました」

専務のちょっとニヤけた顔を思い浮かべる。

若い頃はそれなりにスマートだったのに、歳をとってアクが強くなってきた。
うん、あれじゃクラブのお姉ちゃんたちに嫌われちゃうよ。


その専務とチンピラを仲介した謎の男。
彼はよっぽどキレる人物なのだろう。
そこだけ、ぽかりと穴が開いてしまったように、何の情報も集まらない。


「あ、そだ。いしー先生の方は?」

「はい、先週末に接触があったようですが、問題ありません」

「そっか」


いしー先生には住み込みでお願いしているけれど、拘束しているわけではない。
自由に屋敷の外に出られるし、外泊だってかまわない。
屋敷の中の事も、体面上は秘密保持をお願いしてはいるけれど、外で誰に話してもらってもかまわないと思っている。

彼は密偵だ。
悪意のない密偵。
自覚のない密偵。


ほら、あんまりブラックボックス化しちゃう却って刺激しちゃうでしょ?


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