会長^2
会長軟禁された
01

窓から見えるのは、手をかけられた日本庭園。
屋敷の主人の為に設えられたそれらは、冷たい雨に打たれて元気がない。

まるで今の私の気持ちのようだ。


……なんてね!
独りでごはん食べるのが寂しかっただけなんだけどね!


ピリリという電子音とともにオレンジのランプが灯った内線をとる。

「はあい」

『あ、雫君? そろそろ時間だけど、旦那様の様子はどう?』

「うん、ご飯終わって、今からお昼寝するって。今行くよー」

『はい。待ってます』

ごろごろと寝そべっていたベッドから跳ね起きる。

枕を整えて、横に転がっていたマネキンの頭をセッティング。
布団をかければ、旦那様の完成だ。

「じゃあ、お父様〜、私はお勉強してきます〜」

ちゅっと額にキスすると、プラスチックの匂いが鼻につく。

「お父様くさーい」「何を言うか」「いやん、お父様うざーい」
ブツブツと独り芝居を打ちながら、平らげた昼食の膳を二人分ワゴンに乗せて“旦那様の部屋”を出た。
勿論、鍵も忘れずにかけて。


どうも暇すぎて、思考回路がおかしい。

右助あたりに訴えると、逆にとんでもない量の仕事を寄こしそうだから黙っているけれども!


暇だ。


日がな一日屋敷に閉じこもっていなくてはならない。
絹江さんも滅多に来てくれないし……。


寂しいなあ。


「あ、雫君、もう良いの?」

客間の前に差し掛かると、ふんわりとした笑顔を浮かべた男性がひょこりと顔を出した。

「うん、いしー先生、少し待っててくれますか? これ置いてきちゃう」

「あ、うんうん。行ってらっしゃい」

ひらひら〜と手を振るのは私の家庭教師。
銀縁の薄い眼鏡が似合う、優しそうな青年。

見た目も話し方も、性格もふわふわしていて、どこかに飛んで行ってしまいそうだ。


キッチンに到着して声をかけると、古参のまかないのおばちゃんがエプロンで手を拭きながら出てきた。

「雫様、ありがとうございます」

「とんでもない。ごちそうさまでした! 美味しかったー!」

「お粗末さまです。……雫様、本当にあれで足りてますか?」

「うん! うん! おなか一杯だよ?」

「そう、ですか?」

微妙な顔をするおばちゃんに、うんうん、と力強く頷いてみせた。

うん、確かに量は少ないと思う。
モリモリ三杯飯いけちゃうお年頃だもんね、私。

でもね、私の分と、“旦那様”の分、二人分食べてるから、十分なんだよ?

心配そうにするおばちゃんに申し訳なく思うけれど、仕方ない。
「おやつ楽しみにしてるね!」と言い逃げしてドロンだ。


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