童話体験
おやゆび姫
魚@

静止した空間を、雷の呼気が乱していた。

熱い……。

両手で押さえ込む肩が震えている。
トードから与えられた熱は、収まるどころかますます勢いを増して雷の身の内を駆け巡っている。

トードの体液で湿った皮膚にじくじくとした刺激を感じる。
一度怒張した中心の勢いも削がれる気配はなく、ひくひくと自らの腹を叩いていた。
その微かな刺激ですら、更なる熱に繋がっているような気がする。
「ぅあ……はっ……」
雷の頭の中は、訳の分からない熱に翻弄される恐怖と、その熱を開放したいと言う浅ましい欲求とに埋め尽くされていた。

「早く洗い流した方が良いわ、哀れな花嫁」
「早く逃げた方が良いわ、哀れな花嫁」
二つの方向から、歌うような軽やかな声が聞こえた。

驚いて顔を上げると、暗い水面から二つのそっくりな顔がのぞいていた。
「だれだ……?」
自分の声が掠れている。

「ガマはいけない」
「あいつらはいけない」
「さらって来ては」
「閉じ込める」
「気に入ったら」
「死ぬまでせめる」
「気に入らなかったら」
「美味しく頂く」
「息子は狂ってるわ」
「父親だって狂ってるわ」
ハスの葉の周りをふわふわと漂いながら、恐ろしい歌を紡ぐ。

「だから」
「だから」
「「早く逃げた方が良いわ」」

ガラス玉のような透明な4つの瞳が、ふわりと笑った。

「……そんなこと言われても」
泳げない自分に、退路はない。
理不尽な怒りが胸に湧きおこる。
「ガマの花嫁になるのがお望みかしら?」
「泥の中で」
「めくるめく」
「ガマと夢の中」
「っ! 嫌だ……!」
先程与えられた屈辱が脳裏に浮かび、背筋が凍る。
唇が震えていた。

「それなら何がお望みかしら?」
すっと、二つの顔が、雷の顔を覗き込むように近づいた。
「……ここから逃げたい」
目の前のガラス玉に情けない自分の顔が映り込んでいる。
陶器のような滑らかな手が、雷の手に重ねられた。


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