バケーション

昼下がりのプロポーズ

有り合わせの昼食で重くなった体を布団に横たえる。
心地よい温度に設定されたエアコンのおかげで室内は快適その物だ。
モーター音と、窓を挟んで聞こえるコンプレッサーと蝉が忙しく働く音が心地よい。

「あ、憲治、車ね、一週間で直るって」

「ああ、そうか」

バンパーが凹んだキャリー君の悲しげな姿が頭に浮かぶ。
悪いな。
お前が愛車なのは間違いないけれど、この愛しい人の存在は桁違いだ。

例えそいつが、新しいの買えばいいのに、と不思議そうにしていたとしても。

……まさか、お前は、あの車を廃車にしたのか。
最寄の駅からあそこまでしか乗っていないという、あの新品を。


眩暈がしてくる。


俺の軽トラに突っ込んだ外車は今年で3代目。
アウディにフェラーリに、今年はBMだったか。
金持ちって……頭の構造から違うのか?


思わず無言でいると、寝ちゃった? と自分こそ眠そうな声で浩紀が話しかけてきた。

「憲治さ、どの国がいい?」

「国?」

「ん。アメリカ……はなあ」

「行くの?」

「んーん。取得が難しいかな。スペイン、ベルギー、オランダ、フランス……はまだ危ないし、カナダ。」

「……カナダ……いいね。農場を見てみたいな」

「Ok, カナダにしようか?」

「……何が?」

目が閉じかけているのに話をしようとする浩紀に思わず笑ってしまう。
言葉のテンポもおかしくて舌がうまく回っていない。

「国籍」

「ん?」

「あ、でももう少し待てばイギリスでいけるかな」

あそこなら支社があるし、いけるいける、と微笑んで眠りに落ちていく浩紀を呼び止める。

「何の話してるの?」

「ん? 結婚のはなし」

「は? 結婚!?」

結婚?
するのか!?

浩紀が、結婚。

許婚とか、ああ、金持ちだから。
そういうこともあるのか……。
だとしても……。

「……聞いてねえ」

恋人だと、俺はこの関係を、そう思っていたけれど。
違った、のか?

浩紀にとっては……?

「うん。今言った。憲治、俺と結婚しよー」

「……は?」

「結婚、しよ?」

「…………」

あ、可愛い。
こてん、と小首をかしげる様が可愛い。







……。



プロポーズされてしまった。
俺からできなかったのが残念だと、まず、そう思ってしまったのを後から思い出して頭を抱えた。


本気、なんだろうか。


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