「
師走の佳人」
父
自分の声も、体も、それから、感覚も反応も。
全てが意識から切り離されて存在している。
そう思わないと狂ってしまいそうだ。
いや、もう狂っている。
色狂いだ。
張りのない乾いた肌の上を這い回る手の感触に身を震わせ、鼻にかかった息を漏らす。
じくじくと腰周りに纏わりつく熱に、肉が溶け出すようだ。
押し寄せる快感の波にくらくらと眩暈がする。
強制的に揺らされる視界の所為なのかも知れないが、いつでも浮遊感が拭いきれない。
いっそ意識までおかしくなってしまえばいいのに。
どうしてか、こうして冷静に考える事が出来る。
最近では、もしかしたらこの状況に満足しているじゃないかと思うこともある。
辛い。
表層で快び、芯で喜び、その間の薄い膜のような自分が、頑固にその感情を否定しようと試みる。
試みたところで事実を打ち消す事はできない。
そうして、絶望感と悲壮感にとっぷりとつかる事でせめてもの言い訳をしているつもりなのだ。
最悪だ。
「あぁっ。あっ。あああぁぁ……ンあ……」
これまでの人生で味わった事のない感覚、それも強い快感を毎日のように教え込まれる。
はじめこそ嫌悪と恐怖で嘔吐した。
泣き叫んだ。
暫くして、はじめに、体が裏切った。
慣れとは恐ろしい。
痛みの中に快感を覚えるようになった。
触れ合う体温にどこか心地よさを覚える。
それに気付いて、精神が崩れていった。
快感を追おうとする心と拒絶する心のふり幅が日増しに広がっていく。
「んはああぁぁぁ……あっあっ……もっ……んンンふ……」
どうしようもない。
何がいけなかったのか。
ただ一人の肉親である娘と目を合わせる事ができなくなった。
こんな男を父親に持ってしまったことを、どう償ったらいいのか分からない。
一回り以上歳下の男に犯されて獣のように声を上げて喜ぶ自分の本性に、どうか気付かないで欲しい。
「なんだ、正樹さん、余裕だね」
「……ヒっ! イイイィィィイイインっ。ンがっ、はっ、あ゙っあ゙っ」
場違いなほど明るい声がして、突然激しくなった男の突き上げに悲鳴を上げた。
辛い筈なのに、どこか甘く媚びた色が滲む。
「あはは! お馬さんみたい」
抑えの利かない喘ぎ声に気を良くした男が楽しそうに笑った。
今の自分の脳みそは、その軽薄な声すら愛撫だと勘違いしてしまうらしい。
脊髄に甘い痺れが伝わる。
「じゃあ、メス馬さんに種付けしましょうね」
「……っ!」
AVのようなアリエナイ台詞にひゅっと息を呑む。
吊るされた餌への期待に鼓動が早くなる。
「んっ、んっ、あ…………あぁぁぁあぁぁ……」
伸びきったアナルを押し広げる剛直がとくとくと脈打つ。
それと共に、腹の中に暖かな飛沫を感じた。
じんわりと全身に広がっていく恍惚感。
──頭の中が真っ白だ。