1.トリップ
 

「ん…?」

「あら、目を覚ましたのね」

「だ、れ?ここは…どこ?」


目を覚まして視界に飛び込んできたのは見知らぬ美しい女性

周りは真っ白な空間

目の前の女性以外にこの空間には何もない

え…私ってば立ったまま寝てた?


「ななし、貴女は選ばれたのよ」

「……は?」


私の問いかけはスルーされた

美人な人だけど…私、この人好きじゃないかも……

それにしてもなんで私の名前を?そして私が選ばれた?何に?


「貴女はこれから『ゼルダの伝説スカイウォードソード』の世界に行けるのよ!どう?嬉しいでしょう?」

「はっ!?いやいやいや、全然嬉しくない!」

「あら?てっきり…やっほー!トリップktkr!!…って反応が来ると思ったんだけど」

「いやいや…」


トリップ?トリップってあの?

そりゃあ憧れのキャラ達に会ってみたい…なんて、何度も思ったよ

だけど普通に考えてトリップなんて…そんなに喜べるものじゃない


「じゃあ…貴女はトリップしたくないの?」

「うん、まぁ…」

「生前はトリップ物の夢小説をよく読んでたじゃない」

「んなっ…何故それを!?」

「ヒ・ミ・ツ」


彼女は唇に人差し指をあてて語尾にハートマークが付きそうな感じで言う

なんなの、この人は!

ん?ちょっと待って……?

…今、彼女は…なんて言った?

彼女の顔を見るとしまったという表情をしていた


「あの、生前って「ななし」…はい」


こ の 人 は !

スルーしたり遮ったり…!

色々言ってやりたいところだけど、

彼女がとても真剣な表情をしているものだから黙って彼女の言葉を待つ


「…このまま消えるか、トリップするか…どっちが良い?」

「そんなの…!」


あぁ、やっぱりそうだったんだ

これは夢であって欲しいと強く思った

家族や友達にもう会えないなんて、そんなの嫌だ

それにあんな死に方なんて…

色々な感情がゴチャゴチャになって涙が溢れだしてうつむくと、何か温かいものに包まれた

…彼女は私を慰めるために抱きしめてくれたのだろう、けどこの暖かさで夢じゃないことを痛感してしまう


「っ……!」


彼女は私が泣き止むまでずっと抱きしめて背中を撫でてくれてた

かなりの時間泣いていたけど、もう涙が出なくなったから彼女からそっと離れた

泣いてても変わらないもんね…


「…そうだわ、力を分けてあげなきゃね」

「や、いらな「無いと大変だと思うけど?」…ください」

「安心して、少しだけだから……」


トリップする事に決定されてる…まぁ消えるかトリップならこっちを選ぶよね…

特殊能力とかはあんまり好きじゃないから拒否しようとしたけど彼女の言葉を聞いて考えを改めた

っていうか消えるかトリップかの2択しかないのかな?

他にお化けになったり天国に行ったりとかは無く?

そう思いながら彼女が何かを呟き終えたと思ったら体の奥がじんわり温かくなった

これが力が湧いてくる感じなのかな…よくわからないけれど


「あの、いくつか質問しても?」

「なにかしら?」

「力を分けてもらわないと大変って事は…戦わないといけなかったり?」

「…そうなるわね」


戦い以前にケンカすらした事ないのに…大丈夫なのかな

彼女から力を分けられたけれどあまり実感も無い


「あら…?そろそろ時間だわ」

「そんな、まだ質問一つしかしてないのに!えっと、えっと…また、会える?」

「えぇ、時が来れば必ず」


その『時』とはいつの事なんだろう

でもまた会えるということに安心する

今度会った時は色々問い詰めてやるんだから!


「あぁ…最後に貴女の記憶をちょっとだけ弄らせて貰うわね」

「な、なんで!?」

「色々あるの。さ、本当に時間よ」


彼女が私の足元を見ながら言う

嫌〜な予感がしなからも自分の足元を見る

するとそこには黒い穴が開きかけていた


「ちょ、落とされるなんて聞いてない!」

「言ってないもの」

「まっ……、やっ、やだあぁーっ!」


小さかった黒い穴がグンッと大きくなったと思ったら浮遊感が

あぁ、さっきまで目の前にいた彼女がもうあんなに遠くに

私は穴を覗きこんでいる彼女に向かって思い切り叫んだ


「うわああぁぁ馬鹿ああああぁぁぁぁ!!」

「な…なんですってえええぇぇぇ!?」


はぁ…ずっと言いたかったことが言えて清々した

それにしても、いつまで落ち続けるの!?

落ちて落ちて、彼女が見えなくなる程遠くなってもまだ落ち続ける

なんか…もうっ、む…り……




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