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成人式黒木と十文字



「帰りたくない」

これが1組のあの子の台詞だったなら俺はすぐに抱きしめてやっただろう。だが、そうしなかったのは染めたての金髪を女々しく弄くる野郎だったからで俺はその台詞を聞こえないふりして野郎に「じゃあな」と言い別れた。
少し歩いてなんとなく後ろを振り返る。たむろしていたコンビニの明るさから一変した暗い夜道を歩いて行く野郎の背中はどんどん小さくなり、闇に消えた。

あの時、なんとなく振り返った理由は20歳になった今でもわからない。ただ本当になんとなくだから理由を探すのもおかしいかもしれないが、でもやっぱりなんとなく理由を探していた。なんとなく、だけど。


「SONSON到着ー」
「さみい」

20歳にもなって男2人ニケツで自転車に乗るとはあの時の俺は思いもしなかっただろう。可愛い彼女を助手席にアルファード辺りの車で夜のドライブを楽しんでる、そんな20歳の俺を妄想していた中学生の頃。だが現実は妄想通りに行かず、こんなもんかと納得してしまうのも俺だった。

成人式は出席した。その後の同窓会にも。十文字がいた。トガもいた。後は知らん。適当に場に合わせて盛り上り、時間になったらさっさと帰った。十文字がいてトガがいれば後はどうでもよかった。トガの家で3人で集まる。覚えたての麻雀をトガと2人で十文字に教えた。最初は俺とトガ、どっちかが勝ってばかりだったが、やっぱり十文字は俺たちより少し呑み込みが早くて頭もよくてあっという間に3人共互角に。そうして日付が変わったら頃、ジャンプ読みたいとトガが言うから俺は渋る十文字を無理矢理連れだし外に出た。

「なんで俺なんだよ…」
「トガん家いるんだから俺らが動くもんだろフツー?」
「嘘つけ、お前なんか企んでんだろ?」
「意味わかんねーよ、かずちゃん」
「かずちゃんはヤメロ」

わざとらしくおどけて十文字の気を逸らそうとするが、野郎に通じるとは思っていなかった。それでも足掻いてしまうのはただの気恥ずかしさで、そこまで十文字が俺の事を理解してくれるのかはまだわからなかった。

なんとなく、十文字は俺たちとは違うと思っていた。中学生の頃の十文字はなんだか世間知らずな雰囲気が漂っていて、言ってしまえば無理矢理不良になろうとしているお坊ちゃんのようだった。自分をあまり主張はしないが俺たちといて笑ってくれるからと、違和感を感じつつも、まあ一緒にいるかぁとだらだらつるんでいた。
無意味に集まり、無駄に喧嘩したりな生活からアメフトに打ち込むようになった十文字は、やっぱり俺たちと違っていて、でも今の十文字の方が俺は格好いいと思った。誰にも言わないが。



目的のジャンプとコーラを3本買い、再び自転車に股がる。後ろで十文字が早く帰りてーと、ぼやいたから俺は急いでペダルを漕ぎ出した。




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全然途中で、す。


2013/01/14 22:04


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