Starting-出発-

教室の後ろの扉から分校の外に出たユキと幸村は、外の暗さにまず驚いた。


自分達が立海大附属中を出発したのは早朝。


それから何時間経ったのかわからないが、長くとも4〜5時間程度だろうと幸村は考えていた。


手錠で繋がれた教室には時計がなかったし、腕時計も左側のズボンのポケットに入れたままだったので、時間を確認することができなかったのだ。


しかし、ポケットから取り出した腕時計の針は、2時を少し過ぎていた。


この暗さで午後の2時とはとうてい思えないので、もう日付の変わった深夜ということになる。


それほど長い時間眠らされていたということは、ここは少なくとも自分達の通う立海大附属中からほど遠い場所にあるのだろう。


「私たちどれくらい眠ってたのかな…」


「さあ。おかげで頭がスッキリするどころかとろけそうだな」


ため息交じりに幸村が呟いた次の瞬間、わずかに風を切るような音が聞こえて、半ば反射的に幸村はユキを突き飛ばしていた。


「きゃあっ!」


「くっ…」


ユキの背中に覆い被さるようにして地面に倒れ込んだ幸村の左腕に、鋭い痛みと熱が走った。


その痛みの原因を確認する間もなく、すぐさま体勢を直し、幸村は地面に深く突き刺さっている刃に目をやった。


刺さった状態なので正確にはわからないが、刃渡り20cm以上は確実にあるだろう。


ナイフの刃のように見えるが、不思議なことにそのナイフには柄がない。


まるでナイフの刃だけを遠くから飛ばしたようだ。


この固い地面に10cm近く刺さっている所を見ると、かなりのスピードで飛んできたらしい。


あと一瞬反応が遅れていたら、今頃ユキの頭にはハロウィンの怪物よろしくナイフが突き刺さっていたに違いない。


「誰だ!!!」


叫んでから、自分が思った以上に怒りが湧き上がっていたのだと理解する。


暗闇の中、ナイフが飛んで来たであろう方向に目を凝らすとかすかに人影が見えた。


しかし、それが誰かまではわからない。


誰であろうと、もはや悪戯では済まされないレベルだ。


明らかな殺意。


「ユキ、走れ!!」


「っ…」


やっと立ち上がったところで、ユキは幸村に手を引かれ、そのまま全力疾走で森の中に消えた。


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