六話目:取り残された七人
どうやら俺の話が最後みたいだね。
俺は幸村精市。
三年だよ、よろしく。
どうだろう。
ちょっと気分を盛り上げる為に場所を移動しないかい?
これだけ待っても来ないんだから、もう七人目は来ないだろう。
ここを離れても大丈夫だと思うんだ。
さあ、田口さん、ついておいで。
……この集まりは、旧校舎が取り壊される事を記念して持ち上がった企画だろう?
だから、旧校舎で話をしようと思うんだ。
その方がきっと良い記事が書けると思うよ。
せっかくだし、もう二度と入れないんだから、今は立ち入り禁止になっているけど、そっと忍び込めばわからないはずさ。
それに俺が話すのは、この旧校舎にまつわる話だからね。
……さあ、旧校舎だよ。
田口さん、覚悟はできてる?
この中の、ある一つの教室に行くよ。
……暗いね。
電気が通ってないから仕方ないけど。
足もとに気をつけるんだよ。
結構、床が腐ってるから。
床を踏むと、嫌な音がするだろう?
きぃきぃきぃきぃ、怨念が泣いているみたいだ。
……さあ、着いた。
この教室だよ。
中に入って、適当に座ってくれ。
それじゃあ話そうか。
この旧校舎で起きた出来事を。
これは、もう何十年も前に起こった話なんだけれど……。
だから、その話の真偽を確かめる事はできない。
本当に起こった話かもしれないし、もしかしたら作り話なのかもしれない。
まあ、それはもうすぐ君がその目で確かめられる訳だけどね。
その事件の発端は、この教室で起こったんだよ。
季節は、ちょうど今頃だった。
蒸し暑い夏のある一日。
その日、数人の生徒達がこの教室に残って夏休み明けに行われるイベントのパンフレットを作っていた。
と言ってもパンフレット自体は既に書き上がってて、後はそれを必要な枚数だけ印刷してホチキスで綴じていくだけだったけどね。
問題はその量さ。
この学校にどれだけの生徒がいるか、君も知っているだろう?
今に比べればまだ少ない方だけど、それでも一学年だけで大勢の生徒がいた。
全員分のパンフレットを印刷して綴じていくなんて、想像しただけで気が遠くなりそうだよ。
それをたった数人でやらなければならなかったんだから、思わず逃げ出したくもなるさ。
でも彼らは逃げなかった。
いや、正確には逃げられなかったんだ。
……理由?
うん、気になるよね。
まあ、それはまた後で話すとしよう。
その時残っていた生徒は七人いたんだ。
まるで、今回の俺達と同じようにね。
男性が六人、そして女性が一人。
彼らは放課後のひっそりとした旧校舎のクーラーもないこの教室で、汗を拭きながら作業に取り組んでいた。
先生は時々様子を見に来るだけだった。
でもね、ちょっと急用ができてしまい、後のことを他の先生に頼んで帰ってしまったんだよ。
……それがいけなかったんだ。
頼まれた先生は、なんの気なしに約束してしまったんだね。
その七人のことを忘れて帰ってしまったのさ。
どういう訳か、その時の見回りの用務員さんも気づかなかったようでね。
後で聞いた話だけれど、確かに見回りに行って、その時には誰もいなかったと言うんだよ。
嘘をついているのか、それとも何かの力が働いて一瞬だけ彼らの姿を見えなくさせてしまったのか……。
とにかく、この人は誰からも忘れ去られ、この教室に取り残されてしまったんだ。
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