六話目:取り残された七人

残された七人は文句を言いながらも黙々と作業を続けていた。

帰りたくても帰れない理由が、彼らにはあったのさ。

彼らの仲間が部活動中に問題行動を起こしてね。

連帯責任としてその場にいた全員が長い反省文を書かされた後、罰としてパンフレット作りをする事になったんだ。

……まあ、先生の仕事を押し付けられただけ、とも言えるけど。

とにかくそんな事情があって、どんなに時間が掛かろうが途中で放り出す訳にはいかなかったんだ。

先生からは明日の終業式までに全員分を用意しろと言われていたし、もしそれができなかった場合は夏の大会には出場させないと言われていたからね。

理不尽だと思ったけれど、こちらが問題行動を起こしたとあっては反論する余地もない。

下手に逆らって部活動まで停止させられたら、自分達だけじゃない、他の部員にまで迷惑を掛けてしまう。

手伝うと言ってくれた仲間もいたけど、もしそれが先生にバレたら全部が水の泡だ。

だから何が何でも成功させて、夏の大会に全員で参加したい。

その一心で彼らは黙々と作業に取り組んでいた。

だんだんと日が暮れて、ふと時計を見るともう九時を回っていた。

でも、それがそもそも不思議な事だと思うんだ。

そんな時間になるまで、どうして誰も気がつかなかったのか。

いくら集中して作業に取り組んでいたとしても、教室には人も生徒がいたんだよ?

どんなに練習が長引いたって普段ならとっくに下校して、夕飯やお風呂も済ませているような時間だ。

なのに誰も気づかないなんて、そんな事あるんだろうか……。

その時点で、誰かが帰ろうと言い出せばよかったんだ。

でも、誰も口に出さなかった。

変だなと思いながらも、薄暗い蛍光灯を頼りに作業を続けていたんだよ。

山積みになったプリントはまだまだたくさんあったからね。

……時計が十時を回った頃だった。

さすがに一人がしびれを切らしてね。

「なあ。俺達、忘れられてんじゃないか?」

誰もが一番聞かれなくない質問だった。

そして、残りの六人は顔を見合わせたのさ。

「そんなことないよ。先生が私達を放って置くなんて、考えられないもの」

一人がついそんなふうに答えたんだ。

そういう自分にも自信はなかったけれど、自分達が見捨てられているとは思いたくなかったんだろうね。

「だったら、どうしてこんな時間まで来ないんだよ。もう十時を回ってんだぜ」

そう言って彼は教室の壁に掛かっている時計を指差した。

「確かにもう遅い時間だが、職員室の明かりは点いているし、終わったらこっちから先生を呼びに行けばいいだろう」

一人の男子生徒が不安を打ち消すように強い口調で言ったんだ。

「……それもそうっスね」

そして、みんなはまた作業を続けたんだ。

それでも、終わらない。

同じ作業を何度も繰り返して一番効率の良い方法でやっているのに、机の上にあるプリントはちっとも減らない。

全員が協力して全力で取り組んでいるのに、まだ半分以上残ってる。

このまま帰ったら明日の終業式には絶対に間に合わない。

そうしたらもう、今年の大会には出られないんだ。

七人の中のほとんどが三年生だったから、今年が最後の大会だ。

これを逃したらもう二度と出場する事はできない。

だから絶対に失敗する訳にはいかなかった。

それでも作業は終わらない。

やってもやっても、永遠に終わる事のない作業をやらされている気分だった。

時計を見ると、まだ十時二十分。

もっと時間が経っていてもいいはずなのに、あまり時間は経っていなかったんだ。

それからしばらくして……。

まだ時計は十時二十分を指していたんだ。

「……なあ、あの時計、止まってんじゃねえのか?」

さっきとは違う男子生徒が心細そうに呟いた。

それは、誰もが気づいている不安だった。

それがあの時計だよ。

ほら……。

あの壁に掛かっている時計。

暗くて見えないかい?

あの時計は、今、何時を指していると思う?

十時二十分だよ。

あの時から、ずーっとあの時計の針は十時二十分を指しているんだ。

どうだい?

あの時計を調べてみるかい?


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