四ノ刻 秘祭
「座敷牢?この家そんな物まであるのか?」
ブン太から赤也の居場所について聞いていた宍戸は、驚いて後ろを振り返った。
「玄関が開かなかったから裏口みたいな場所からこの家に入ったんだけど、廊下の奥に座敷牢があってさ。あいつらに捕まったんならたぶんあそこにいると思う」
「ならそこへ案内しろ」
「うーん……赤也が捕まった後、ユキ連れて家中逃げ回ってたからな。あんまりよく覚えてねえんだよなあ……」
そう言って首を傾げるブン太に、宍戸は呆れたように深いため息をついた。
「まあ脇戸から入ったんなら、一階のどこかにあるだろ。確か玄関の近くにもう一つ扉があったよな?あっちにあるんじゃねえか?」
宍戸の言葉に跡部も頷き、三人は雛壇の間を出て客間へと戻った。
すると先程まではなかった古い書物がぽつんと座布団の上に置かれていた。
跡部が拾い上げると、書物の隙間から一枚の写真と"蝶"が描かれた札鍵が滑り落ちた。
写真には白い着物を着た二人の少女が写っているが、片方の少女の顔は何故か酷く歪んでしまっている。
「それ双子か?そういやこの家に入る前に同じような着物を着た女を見かけたよな?」
宍戸の言葉にブン太も頷いて声を上げた。
「お前らも見たのか?俺と赤也もこの家に入る前に白い着物の女に会ったんだ。なんつーか、すげえ気味の悪い奴で見た瞬間寒気が止まらなくなってさ」
「ああ。着物も血塗れだったしな。あいつはヤバそうだ。関わらない方がいいかもな」
「……」
宍戸達の会話を聞きながら跡部は蝶の札鍵をポケットにしまうと、紐で綴じられた書物を開いた。
紙自体が相当古いのでそれだけでも書いてある文字を判読するのは困難な事なのだが、これはさらに古い文字で書かれていて跡部にはさっぱりわからなかった。
"ひらがならしき文字"と"漢字っぽい文字"が見て取れるので、かろうじて日本語だとわかる程度だ。
英語やドイツ語などの外国語ならともかく、日本の古文書を解読できる中学生はなかなかいないだろう。
「おい」
困った跡部はとりあえず宍戸とブン太にも古文書を開いて見せた。
最初からあまり期待はしていなかったが、案の定二人も読めない文字を見て首を傾げた。
「の……いや、"お"か?何かところどころ読めそうだけど、このぐにゃっとしたのがわかんねえ。これ本当に日本語か?」
難しい顔で書物を覗き込むブン太の隣で宍戸もため息をつきながら頷く。
「またこれか。あの"射影機"の本もこんな感じだったよな。あれは図が載ってたからまだわかりやすかったけど、これはさすがに無理だぜ」
跡部と宍戸が見つけた射影機について記された書物も同じような字で書かれていたが、あちらの書物には射影機の図も載っていたし、個人的なメモとして書いていたのか、ところどころに説明用の絵が描いてあった。
跡部達はその図や絵を見て射影機の事を知っただけで、記されていた文字はほとんど読めなかったのだ。
だがこちらの書物には図も載っていないし、個人的なメモのようなものも見当たらない。
おそらくこの書物は射影機の覚書きと違って、もっとしっかりとした誰かに見せる事を前提に書かれた書物なのだろう。
そもそも文字が読めない跡部達にとってはそちらの方がより難解なのだ。
だがところどころに"儀式"という文字が書かれているので、この書物を解読できれば"皆神村"について何かわかるかもしれない。
「真壁……清次郎……?なあ跡部、この真壁って名前、確かあの射影機の本にも書いてあったよな?」
「ああ。同じ男が書いた本みてえだな」
「誰だ、それ?何か知ってんのか?」
宍戸が事情を話すとブン太は難しい表情を浮かべて首を傾げた。
「祭りを調べに来た男?……そういや赤也が見つけたノートにそんな事が書かれてたような……」
「ノート?」
「橋を渡った先に神社があってさ。そこで赤也が誰かが書いたノートを見つけたんだよ。何かそいつも俺達と同じようにこの村に迷い込んだみたいで……」
「他にも遭難者がいたって事か……」
「ノートには地下に出口があるんじゃないかって書いてあったけど」
「地下?」
「
深道って呼ばれる地下道があるみたいでさ。けどその先を読む前にあいつらに襲われて……」
「そのノートは今どこにある?」
「たぶん赤也がまだ持ってるんじゃねえ?没収されてなきゃ、だけど」
「……」
跡部は少し考えた後、真壁清次郎の手記を宍戸に押しつけて客間を後にした。
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