四ノ刻 秘祭

玄関に戻り蝶の札鍵を使って東側の扉を開けると、階段のある物置に出た。

鍬などの農具や荷車の部品のような物も収納されているが、長い間使われた形跡はない。

にも関わらず、屋敷の奥からは時折人の話し声や足音などが聞こえて来る。

幸村達の可能性もあるが、それにしては気配が薄い。

生きている人間の気配には思えないのだ。

「んー、ここ見覚えあるなあ」

ふと部屋の中を見回していたブン太が呟いて半分開いた扉の向こうを指差した。

「たぶんあっちから来たんだと思う。ここで赤也が拾ったノートを確認してたらあいつらに襲われて……そんであの雛壇のあった部屋に逃げ込んだんだ」

「ノートは神社で拾ったって言ってなかったか?すぐに確認しなかったのかよ」

「あんな暗い所でノートなんか読める訳ねえじゃん。月明りはあったけど小さい字なんか見てたら目が疲れるだろい」

「まあ確かにそうだな。懐中電灯持ってても暗かったし」

宍戸が納得したように頷くと、跡部が射影機を片手に奥の扉を開けた。

暖簾の掛かった廊下を進みつきあたりにある扉を開けると、そこには小さな火鉢と座敷牢へ続く扉があった。

扉には腰の高さくらいに小窓もついているが、昔はここから中の様子を確認していたのかもしれない。

ブン太が扉を開けると、座敷牢の中にいた人影が動いて格子に駆け寄った。

「丸井先輩!」

「やっぱここにいたか。大丈夫か?」

座敷牢に囚われている赤也はひとまずは元気そうだった。

特に目立った怪我もなく、ほっとした様子でため息をついている。

「つー訳でユキとははぐれちまったんだけど、あいつここに来なかったか?」

ブン太が事情を話すと赤也は驚いた様子で首を振った。

「来てないっスよ。ていうか、なんであいつから目離したりしたんスか!」

「だからさっきも言っただろ!俺が気失ってる間にどっか行っちまったんだよ」

「ヤバイっスよ。あいつなんか様子おかしかったし、村の連中もやたらとあいつの事狙って来るし……」

「仁王達と合流できてりゃいいんだけどな。それよりお前、ここから出られねえのか?」

「無理っスよ。体当たりとか色々試してみたけど、この牢屋見た目以上に頑丈でビクともしねえし、大声で叫んでも誰も来ねえし」

「鍵を見つけて来るしかねえか」

ブン太がため息混じりに呟いた時、跡部が格子に手をついて遭難者のノートを赤也に要求した。

「ノート?ああ、これの事っスか?」

格子の隙間から赤也がノートを手渡すと、宍戸が近くに置いてあった蝋燭を手にして跡部の手元に近づけた。

ブン太も身を乗り出すようにしてノートを覗き込む。

「"双子"を特別視する習わしと儀式か……。やっぱりあの双子地蔵と何か関係があるのか?」

「桐生、立花、逢坂、槌原……そして村の祭りを司る黒澤家。それがこの屋敷か」

「"蝶"についても何か色々書いてあるな。何かの隠語じゃないかって」

「双子の儀式と何か関係があるのかもな。それよりこっち見てみろ。"深道"について書いてあるぞ」

「古くからある地下道……外へ繋がる道が見つかるかもしれない……。でも入り口がわからない?何だよ肝心な所がわかってねえじゃん」

「黒澤家なら何か手掛かりが見つかるかもって書いてあるな。もう少しこの家を調べてみるか?」

「……」

赤也が見つけたノートからわかった事は主に三つ。

一つは、双子を使った儀式が行われていたという事。

その儀式が終わると村のどこかに双子地蔵が作られるようだが、詳しい事はわからない。

二つ目は、蝶に関する事。

この村で"蝶"は特別な意味を持っていて、何かの隠語であるという事だ。

おそらく双子を使った儀式と何か関係があるのだろうが、それ以上の事はまだわからない。

そして三つ目は、深道と呼ばれる地下道が張り巡らされているという事。

儀式に関係する家々を繋ぐ地下道から外へ繋がる道が見つかるかもしれないとノートには記されている。

だがその入り口はわからず、村の全てを仕切っていた黒澤家にならば何か手掛かりが残っているかもしれないという事だ。

「あ、そうだ。さっきそこの本の間からこれ見つけたんスけど」

そう言って赤也が差し出したのはどこかの扉の鍵と村の地図、それと屋敷の見取り図だった。

「これはこの家の見取り図か……」

「座敷牢って書いてあるな。この廊下の先が地下貯蔵庫に繋がってて、そこに脇戸があるみたいだ」

「ああ、俺と赤也が入って来た所だ。でもすげえ真っ暗で貯蔵庫って割には何も置いてなかったけどな」

「当主の部屋ってのもあるみたいだな。跡部、どうする?」

「面倒だが調べるしかねえ。ユキが"双子"だからこの村の連中に狙われてるとすれば、村の秘祭って奴を調べれば何かわかるかもしれねえ」

「そうだな。それにこの牢屋の鍵も見つけねえと」

赤也が囚われている牢の扉には黒い錠前が掛かっている。

だいぶ錆びついているように見えるが赤也が体当たりをしても壊れなかった事を考えると、やはり鍵を見つけて開けるしかないだろう。

「行くぞ、宍戸」

「おう。……と、丸井、お前はどうするんだ?」

宍戸が振り返って尋ねると、ブン太は座敷牢と跡部を交互に見て、それから小さく肩をすくめた。

「こいつ置いて行く訳にもいかねえし、俺はここで待ってる。もしかしたら幸村君達がここへ来るかもしれねえだろ?」

「そうか。じゃあまた後で会おうぜ」

そう言って宍戸は先を行く跡部の後を追った。


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