If…Law of the jungle
地獄のゲームが幕を開けて4日が過ぎた午前4時過ぎ。
過酷なサバイバルに多くの参加者が"退場"となる中、未だ一人の死者も出ていない学校があった。
王者、立海大附属中。
彼らは初日からずっと北東の灯台に立て籠もり、部長・幸村と副部長・真田の統率のもと籠城戦を展開していた。
灯台は堅固な造りで非常用の水も食料も設備されていたが、基本的に島のどこからでも視認できる程大きく、夜間は自動的に明かりが灯るようになっている。
殺し合いがルールの極限状態の中でそんな目立つ場所に身を潜める者はいないという考えを逆手に取り、幸村達は交代で見張りをしながら未だ合流できていない二人の後輩、切原赤也と跡部ユキの無事を祈っていた。
「ブン太、見張りお疲れ様」
ダイニングキッチン兼リビングの丸椅子に腰掛けたまま幸村が振り返ると、たった今ドアを開けて入って来たばかりのブン太が眠そうな顔で向かいの椅子に座りテーブルに突っ伏した。
「ふわあ……眠ぃ……。腹減った……」
「次の見張りは誰だい?」
「んー…仁王。さっき代わってきたぜぃ」
するとそこへシチューの入った器を持ちながら柳生がやって来た。
「お疲れ様です。レトルトではありますが、シチューですよ」
「マジ!?うまそーじゃん!」
美味しそうな匂いに眠気も吹き飛んだ様子で、ブン太は嬉しそうにシチューを食べ始める。
「缶詰ならたくさんあったけど、レトルト食品もあったのか…」
「ええ、付設された住居の方に非常食が保管されていたんです。それと少しですが野菜もまだ残っていました」
「へえ…それは朗報だね」
思わぬ収穫を喜びつつ、幸村はテーブルの上の地図に視線を落とした。
禁止エリアによってだいぶ狭まって来たが、幸い灯台はまだ禁止エリアには設定されていない。
しかしエリアが狭まれば狭まる程、籠城戦は厳しくなって来る。
政府から支給された水と食料だけでは最終日まで身が持たないし、傷を負ったり疲労が溜まればどうしても建物の中に入って物資を回収したり体を休めたりする必要がある。
禁止エリアによって入れる建物が少なくなれば、それだけ敵と遭遇する可能性も高くなる。
「そろそろ警戒を強めた方がいいか…」
地図を見つめながら呟いた時、横に置いてあった無線機から仁王の声が響いた。
この無線機は幸村の支給品で、もう片方は報告の為に見張り役が所持している。
「南東の方角、集落の方で反応有り」
「銃声は?」
「聞こえんかったぜよ」
「…それほど遠くないな。油断せずに見張りを続けてくれ」
「了解」
ジジ…というノイズを残して無線が切れると、幸村は地図にメモを書き込んで食事を終えたブン太に視線を移した。
「予定より少し早いが、仮眠に入っていいよ。柳生も今の内に休んで置いた方がいい。これからは今まで以上に警戒する必要がある。真田を起こして柳と交代するように伝えてくれ」
「わかった」
「では、お先に休ませて頂きます」
ブン太と柳生が仮眠室へ向かうのを見届けてから、幸村は参加者名簿を取り出し目を通した。
既に退場してしまった参加者達の名前の横には小さく印が付けられている。
「…手塚、跡部、後は不動峰の橘か。赤也の性格からして跡部と協力するとは思えないが……」
考え込みながら、幸村は疲れたように目頭をこすった。
「後68時間」
呟いた言葉は虚空へと消えていった。
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