If…Law of the jungle
『死亡者―…青春学園S1手塚国光、氷帝学園5番・向日岳人。禁止エリアは7時F‐6、10時E‐9です』
夜が明け始めた午前6時、もう何度目かもわからない放送が響き渡り、真田は地図と名簿にそれぞれ印を付けた。
「手塚もこれまでか…。青学はもう終わりだな」
「いや、あの一年はダークホースだ。油断しない方がいい」
向かいの席に座り同じように地図に印を付けていた柳の言葉に、真田は頷いて名簿をしまった。
「必要な物資は揃ったのか?」
「ああ、柳生と桑原が奥で整理している。考えていたよりもだいぶ余裕をもって確保できたので、周囲の
罠も厳重にした」
「そうか。他に必要な物はあるか?」
柳はリストに目を通しながら横に置いてあるメモ帳に必要な物を書き出していく。
「…こんな所か。あまり欲張っても余計な闘争を招くだけだからな。これ以上のリスクは冒せないだろう」
「わかった。後で幸村にも知らせておこう」
そう言って真田が席を立った時だった。
テーブルの上に置いてある無線機からノイズが走った。
「真田!森から銃声が聞こえたぜぃ!」
無線から聞こえたのは、灯塔の展望スペースで見張りをしているブン太の声だった。
「方角と距離を言え!」
「西の森だ!距離はよくわかんねぇけど……うわ!また鳴った!結構近い!」
「誰かが戦っているのか?」
「わかんねぇ!でも機関銃って言うのか?普通の拳銃じゃない、何かヤバそうな武器持ってるみたいだ!」
すると柳が素早く地図を広げて真田から無線機を受け取った。
「そのまま見張りを続けろ。仁王も見張りに行かせる」
「了解」
一旦無線を切り、真田は柳の指示に従って仮眠中の仁王と幸村を起こしに行った。
「仁王、すぐに狙撃の準備をしろ!絶対に近付けさせるな!」
「嫌な朝じゃのぅ…」
「真田、相手の人数は?」
「まだわからん」
仮眠室前の通路で仁王と別れリビングに戻った真田と幸村は、柳に加え既に集まっていたジャッカルと柳生の顔を見回してテーブルの上の地図に目を落とした。
「丸井の報告によれば、銃声は一発ではなく不定期に何度も鳴っていたそうだ。一際大きな銃声が数回と、機関銃のような断続的な銃声が数回。正確な距離は不明だが、こちらに近付いて来ているのは確かだ」
柳の説明を聞いて幸村はしばらく考えた後、柳生に出入り口の監視を任せて真田達に武装させた。
「見通しの良い裏口方面から来る事はまずないだろう。警戒するとしたら、森の入口。一応カモフラージュはしてあるとは言え、昼間は発見されやすい。十分注意してくれ」
「わかった」
「念の為、ジャッカルは裏口で待機。柳はここで見張りの報告を聞きながら各自に指示を出してくれ。俺と真田は入口を警戒する」
「了解した」
幸村の指示で各自が配置につき、幸村と真田はそれぞれ武器を手にして入口へと向かう。
幸村が持っているのは強力なマグナム弾を発射する自動拳銃デザートイーグル。
サプレッサー(消音)が取り付けられている為、発射音と閃光が軽減されているが、扱いが少し難しい銃でもある。
元々は青学の菊丸の支給品だったが、物資を集める為に島内を見回っていた真田と柳が発見し確保した物だ。
真田が持っているのはFNC。
大きな銃で装弾数30発、3点バーストで発射できる命中精度の高いアサルトライフルだ。
しかし殺傷能力の高い武器を持っていても、銃撃戦になれば死傷者が出る可能性が高い。
もしこちら側に被害が出なかったとしても、銃声によって別の誰かを誘き寄せる事になる。
その為、できる限り戦闘は避けたいと幸村は考えていた。
警戒したまま時間だけが過ぎて行き、やがて見張りをしていたブン太から柳に報告が届いた。
「それは…間違いないのか?」
「ああ。一瞬だったけど、確かに見えたぜぃ。スカート履いてたし、女に間違いない」
「だとすると、ユキか不動峰の橘の妹のどちらかか…。他に何か特徴はなかったか?」
「草むらでよく見えなかったからな…。俺、てっきりユキだと思って……」
「髪型はどうだ?橘の妹は確か肩くらいのボブだったと思うが…」
「あ、そうか。うん……それならユキに間違いないと思うぜ。背中しか見えなかったけど髪長かったし。服の色にも見覚えあった気する」
「ユキだとすると、赤也も行動を共にしているはずだが?」
「ちょっと待った。仁王、何か見えるか?………わかった。柳、やっぱり二人に間違いないって!赤也がいた!」
「了解した。幸村に連絡する。お前達はそのまま見張りを続けてくれ」
柳の報告を受けた幸村は少し考えてから、武装を解くように指示を出した。
「俺が迎えに出よう」
「ああ、頼む」
「弦一郎、赤也達の他に人影は確認できなかったが、先程の銃声が二人に関係しているとすれば、何者かに追われている可能性が高い。十分注意してくれ」
「わかっている。ここは任せたぞ」
そう言うと真田はFNCを抱え直して灯台の外に出て行った。
島の北東に建つ灯台は東側が崖になっており、中に入る方法は西の正面入り口と南の丘に出る裏口、そして灯塔に付設された平屋建ての住居部から入るしか方法はなかった。
無論、灯台に来てすぐ住居部の出入り口と窓は倉庫にあった釘と板で厳重に封鎖したのでそこから入る事はできない。
また、西の正面入り口も見通しが良く敵に気づかれる恐れがあった為、近くの川を決壊させて灯台に続く道を壊し、一つだけ残してあった住居部の入口に続く道だけを岩と木でカモフラージュしたのだ。
真田は慎重にドアを開けて茂みを抜けると、地面に伏せたまま辺りの気配を窺った。
すると川の決壊によって出来た崖の前に、茫然と立ち尽くす赤也とユキの姿があった。
赤也のシャツは胸から腹に掛けてべっとりと血が付着していたが、目立った外傷はないのでこれは赤也の血ではないのだろう。
他に人の気配がない事を確認して、真田はゆっくりと二人に近付いた。
「真田…副部長…?」
ようやくこちらに気づいて振り返った赤也は、まるで幽霊でも見たかのように茫然と立ち尽くしていた。
「しっかりせんか!全く…お前達は…」
呆けたように立ち尽くす二人に喝を入れて、真田は茂みの向こうへ二人を案内した。
「これ…」
「向こうの道は我々が崩したのだ。あそこは広くて目立つからな。灯台へ続く道はここと、正反対の丘の上に出る道しかない」
一列になって細道を抜け、住居部を経由して灯台の中に入ると、リビングで幸村と柳が二人を出迎えた。
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