If…堕ちた帝王side.B

灰色の雲が空を覆う中、鳳は負傷した宍戸を背負いながら海岸に向かって歩き続けていた。


どことなく湿った空気が辺りを包み込み、雨が降るにおいを漂わせている。


「……雨が降りそうですね」


ぽつりと呟く鳳の横で、跡部は空を見つめながら何事か考え込んでいた。


丘の上で宍戸達と出会い一度は争ったものの、宍戸の言葉で僅かな希望を取り戻した跡部は、ある事を確かめる為に南の森の中へと足を踏み入れた。


「!」


前方に見覚えのある岩を見つけて、鳳は足を止める。


「どうした?」


「…跡部部長、あの辺りです」


鳳が指差した方を見て、跡部は無言で頷いた。


そしてゆっくりと岩に近付き、血痕が付着した木のそばの茂みを覗き込んだ。


「っ……」


そこにあったものは、山吹中の亜久津仁によって射殺された、青春学園の越前リョーマの遺体だった。


鳳から話を聞き覚悟はしていたものの、やはり実際に目にすると大きなショックを受ける。


リョーマは氷帝学園の芥川慈郎の襲撃を受けた際に、肩と腕に切り傷を負い、亜久津の銃撃によって頭と胸に5発もの弾丸を受けていた。


リョーマの遺体を見下ろしながら、跡部は地面に膝をついて首輪に目をやった。


爆弾付きの首輪はリョーマが死亡した時のまま、彼の首に巻きついている。


「……」


跡部がどうしても確認したかったもの…。


それは"死亡者の首輪は爆発しない"という事実だった。


忍足や芥川の時もそうだったが、参加者全員に装着された首輪は、装着された本人が死亡すると爆発しない可能性があった。


今までにも禁止エリア内に遺体と首輪は存在したはずだ。


しかし禁止エリアによって死亡者の首輪が爆発したという事実は確認できていない。


特待生に選ばれた跡部は、今回のプログラムが開始される一月前から、参加者全員に爆弾付きの首輪が装着される事を知っていたが、それとは別に首輪にはもう一つ機能が追加されている事を知っていた。


それは、首輪に内蔵された盗聴器だ。


それによって政府は参加者全員の行動を把握し、万が一支給された武器を利用して自分達に反抗する者が現れた場合、ルールに違反をしたとしてその参加者の首輪を爆発させる事ができる。


まさに自分達の命は政府関係者の掌の上なのだ。


事前に知った所で、反抗する事も誰かに助けを求める事もできない。


だからこそ跡部は、狂気の道を選ぼうとしたのだ。


それしかユキを救う術はなかった。


しかし…もう一度、自分を信じる勇気を持った。


まだ希望は残っているのだと、教えられたからだ。


そしてその希望は、目の前に隠されていた。


「!」


命の危険を顧みずに死亡者の首輪を調べた跡部は、遂に"希望"を見つけ出した。


この首輪は、外部から取り外す事が"可能"であると。


さらに首輪に内蔵された盗聴器も、本人の死亡が確認された時点で自動的に解除される仕組みになっていた。


死人に口なし。


参加者とは言え、もう二度と喋る事のない死者の音声まで確認する必要はないという事だ。


つまり"死亡"すれば、爆弾も政府の監視からも逃れる事ができる。


答えは"絶望"の中にあったのだ。


「…行くぞ、鳳」


希望を手にした跡部はそう言って歩みを進めた。


海岸に向かって歩きながら、持っていた地図の裏にメモを書く。


それを鳳に見せながら跡部は口を開いた。


「死体はそのままになってるみてぇだ。このゲームが終わるまで奴等は分校の外には出ないだろう」


メモを読んだ鳳は一つ頷いて、少しだけ足を速めた。


「やっぱりそう上手くはいきませんね…。宍戸さんはもう戦えませんし、二人だけじゃどうにも…」


「ああ。襲撃するのは自殺行為だ。他に手があるとすれば…」


話しながら跡部はまたメモを書いて鳳に見せた。


それを見て鳳は一瞬驚きの表情を浮かべたが、気を失った宍戸の顔を見て諦めたように頷いた。


「何か策があるんですか?跡部部長」


「ああ。一つだけな…」


そう言って跡部は足を止めてガバメントの銃口を鳳達に向けた。


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