悲しみの不協和音
『えー今日がプログラム最終日になりまーす。0時がタイムリミットだからなー。それじゃあ死亡者ー、立海大附属中R1幸村精市、R2真田弦一郎、8番・切原赤也、以上3名。それから禁止エリアですが、放送終了後から廃止になりまーす。ただし、分校と島の周り以外です。ですから海岸には近づかないようにー』
そう言って放送は切れた。
岩に座って聞いていた跡部と忍足は、思わず立ち上がり目を見開いた。
幸村と真田が死んだことは知っていたが、赤也の名前までもが上げられたことに驚きを隠せなかった。
「切原!アイツまで死んだ言うんか!?」
「っ…」
「そんな馬鹿な…切原はユキちゃんと一緒に居ったはずやろ?せやったら…」
「名前が上がったのは切原だけだ。ユキの名は呼ばれてない」
「…生きとるっちゅーことか」
「当たり前だ。…だが」
安心は出来ない。
ユキと一緒にいた切原が死んだということは、ユキは何かしらの危険にさらされた、ということだ。
もう一刻の猶予もない。
「跡部、どないするつもりや?」
「…チッ、とにかく移動するぞ!」
そう言ってディパックを背負った時、背後に人の気配を感じた。
「!?」
驚いて銃を抜いて振り返ると、そこに二人の人物がいた。
「待て、跡部。俺達はお前達と争うつもりはない」
「っ…柳!」
現れたのは立海大附属中の柳蓮二と仁王雅治であった。
二人共銃を所持しているが手にする気配はなかった。
「目的はお前さんらと一緒じゃ。ユキを探しとる。…わかったら"それ"を下ろしんしゃい」
「……」
跡部は一度忍足に目で合図を送った後、静かに銃を下ろした。
「跡部、お前も妹を探しているのだろう?」
柳の問いに跡部は銃をベルトに戻し答えた。
「ああ。…お前らもか」
「ずっとユキと赤也を探していた。二人は一緒に行動していたからな」
「…だが切原は死んだ。誰にやられたのかは知らねぇがな」
跡部が言うと、柳はどこか曇った表情で頷いた。
「ああ…」
「…灯台には行ったんか?」
忍足が聞き、仁王が口を開いた。
「もともとそこに居ったんじゃよ。俺ら全員」
「!」
「幸村の指示で交代でユキと赤也を探しとったんじゃ」
「精市と弦一郎から"二人が見つかった"と連絡を受け、展望台でジャッカル達と合流したのだが、亜久津に襲われ、はぐれてしまったんだ」
「見つかった!?ユキは灯台に行ったのか!」
驚く跡部に柳が頷く。
「そのようだ。しばらく精市達と一緒に居たらしいが…"ユキの容態が思わしくない"と聞いた後、無線が繋がらなくなった」
「!」
「…跡部、ユキの薬はお前が持っていると聞いたが」
「ああ…」
跡部は浮かぬ表情で答えた。
「灯台に居ったんなら、まだ島の東側に居るんとちゃう?」
「その可能性はある。…一人ならな。ユキは赤也と一緒にいた。ならば何らかの形で赤也の死を目撃したことになる。…そのショックは大きいだろう」
「…早よ見つけんとヤバいっちゅーことか」
「最悪、"自殺"を考える可能性もある」
柳の言葉に、跡部は笑みを浮かべる。
「おい柳、テメぇ俺の妹を甘く見過ぎだ。ユキはそれほどヤワじゃねぇ」
「…そうだな」
「とにかく行くぞ。時間がねぇ」
そう言って跡部は歩き出すが、その拳は強く握られていた。
跡部も不安で仕方がないのだ。
もし妹が危険にさらされていたら…
自ら死を選ぶようなことがあったら…
そんな考えが頭をよぎり、無理やり強がってそれを打ち消す。
その繰り返しであった。
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