喪失

「ん…」


ふと目を開けると、よく晴れた青空が目に映った。


「……」


しばらくぼーっと空を見ていたが、現状を思い出して赤也はガバッと起き上がった。


そのせいで体中がズキンと痛んだが、それよりも今の状況の方が気になった。


「柳先輩…!」


そこにはディパックの整理をしている柳の姿があった。


意識を失う前に見たのは見間違いではなかったようだ。


「大丈夫か?」


そう言われて体を見ると、至る所に包帯が巻きつけられていた。


「これ…」


「応急処置はしたが…あれだけの出血だ、当分はフラつくだろう」


「……」


応急処置とは言うものの、何故包帯など持っていたのだろう。


マネージャーのユキなら万が一に備えて救急セットを持っていてもおかしくはない。


しかし今回はそのユキでさえ持っていなかったと言うのに。


まぁ当たり前と言えば当たり前だ。


もともと今回の合宿は跡部の別荘で行われる予定だったし。


わざわざ自分の別荘に包帯なんぞ持っていかなくても使用人に頼めば済むことだ。


その為、ユキは着替えと…兄の言い付けで肌身はなさず身につけている防犯グッズしか持って来ていなかった。


「…南東の診療所に立ち寄った時に少し借りて来たんだ」


ふと柳が言った。


「顔に出ていたからな。何故こんな物を持っているのか…と」


「そんなわかりやすいんスか俺は」


嘘をつけない質と言うのはまぁいい事なのだろうが、それはそれでちょっと悲しいものがある。


「それより、ユキはどうした?共に行動していたはずだろう」


「!」


その言葉に赤也は一気に今までの事がよみがえった。


「柳先輩、今何時っスか!」


「5時を少し回ったところだ」


どうやら放送は聞き逃していないようだ。


「ユキは…。俺達、ずっと一緒に居たんスけど…千石に襲われて」


「千石…か」


柳の頭に昨日の出来事が浮かぶ。


共に行動していた柳生が撃たれる光景。


どうにかして仁王と二人、千石から逃げ延びたが柳生を救うことは出来なかった。


「それで…ユキは逃げられたのか?」


「千石からは逃がせたけど、今はどこにいるか…。崖から落ちた時、下に半壊した建物があって…俺はギリギリ木の方に落ちて助かったけど、千石は建物の方に…それで…柱に……」


思い出したのか赤也は青い顔で言う。


「その…串刺しに…なってて…」


「…そうか。もういい。それでユキを探していたのだな」


「そうっス…」


「……」


柳は何事か考えているようだった。


「そういえば、丸井先輩達は…。確か展望台で合流するはずじゃ」


赤也が言うと、柳は静かに首を振った。


「亜久津の襲撃にあってな…。逃げられたとは思うが、場所はわからない。仁王も、どこにいるのやら」


「……」


「とにかく早くユキを見つけるしかないな」


柳はそう言ってディパックを背負った。


「歩けるか?」


「平気っスよ、こんくらい」


赤也はショットガンを杖代わりにして立ち上がるが、やはりまだフラフラする。


「早くユキ見つけないと…」


そう呟いて赤也はグッと痛みをこらえて歩き出した。

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