OUTBREAK
その日、跡部ユキは自身がマネージャーを務める立海大附属中の男子テニス部レギュラーの面々と一緒に二泊三日の合宿を終えて帰りのバスに乗っていた。
昼間は晴れて青空が広がっていたのだが、午後から少しずつ灰色の雲が広がって夜には雨が降ると天気予報で言っていた。
何をするでもなく、ただぼんやりと窓の外を眺めていたユキは、隣に座る赤也の声に引かれるように視線を戻した。
連日の特訓で疲れてはいるものの、赤也やブン太達は持参した携帯ゲーム機に夢中でかなり盛り上がっている。
行きのバスの中では熱中し過ぎて見かねた真田に没収されてしまったのだが、さすがの真田も帰りのバスでは赤也達に構っていられる程の体力は残っていないのだろう。
ブン太達の前の席に座っている柳生は静かに本を読んでいるし、通路を挟んだ反対側の席にいる仁王は耳にイヤホンをつけて何やら音楽を聴いているようだ。
前の方の席に座っている幸村と柳は先日観た映画について話している様子で、帽子を被ったままの真田は眠っているのか腕組みをしながら目を閉じている。
普段とは違う環境で行われたスペシャルメニューは赤也達にとっては良い刺激になっただろうが、彼らのサポートをしなくてはならないマネージャーは気力も体力も使い果たして疲れ切っていた。
自分ではそのつもりはなかったのだけれど、やはり相当体に負担が掛かっていたのだろう。
もう喋る気力もなくて意識もぼんやりとしている。
「……雨、降るのかな」
また窓の外に視線を移したユキは、どんよりとした空を見上げて小さく呟いた。
今走っているのは合宿所から最寄りの駅までを繋ぐ道路で、片側は森、反対側は崖になっている。
合宿所がある山の中は避暑地としても有名な場所なのでシーズンにはそれなりに賑わう場所なのだが、この時季は閑散としている。
ただユキ達を乗せたバスが白いガードレールに沿うように走っているだけだ。
町に着くにはまだ時間があるし、少し眠った方が体力も回復するかもしれない。
そう思いながらうとうとし始めた次の瞬間、激しいブレーキの音と共に凄まじい衝撃がユキを襲った。
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