OUTBREAK

「皆、無事か!?」

「っ……なんとかな」

「くそっ、何が起きたんだ……」

ユキが目を覚ますと、そこには同じように困惑しながら辺りを見回す真田達の姿があった。

まだ頭がクラクラしているが目立った傷はない。

体中が時折ズキンと痛むがしばらく休めば治まるだろう。

「ユキ、大丈夫か!?」

こちらに気づいて慌てて駆け寄って来る赤也を見て、ユキはふらりと立ち上がりながら弱々しい笑みを浮かべた。

「うん、私は大丈夫……。それより一体何が起きたの?」

「俺もよくわかんねえけど、たぶん事故だ」

道路にはブレーキ痕が色濃く残っており、その向こうにさっきまで自分達が乗っていたバスが横転している。

一番後ろの席に座っていたユキと赤也、そのすぐ近くにいたブン太とジャッカルは衝撃で割れた後方の窓から外に吹き飛ばされようだが道路の片側は森だった為、運良く草むらの中に落下して軽傷で済んだようだ。

一番前の席に座っていた真田も無事のようだが、よく見ると幸村と仁王と柳生の姿がない。

「っ……手を貸してくれ!!」

ふと仁王の声が聞こえてジャッカル達は横転したバスに駆け寄った。

見ると、割れた窓ガラスの近くで仁王が座席の下敷きになっている柳生を引っ張り出そうとしている。

窓際に座っていた仁王は窓から脱出できたのだろうが、通路側に座っていた柳生は横転した際に座席から転がり落ちてしまったのだろう。

柳とジャッカルが手を貸しどうにか柳生をバスの中から引っ張り出すが、白いシャツは血に染まっている。

「柳生、お前怪我してんのか!?」

「誰かタオルか何か持ってないか!」

「あ、俺持ってるぜ!」

ブン太が首に巻いていたタオルを外して柳に渡すと、柳はそれを手早く柳生の腹に巻いて止血を試みた。

出血は多いが意識ははっきりしているようで、柳生は苦痛に顔を歪めながらもバスの方を振り返って言った。

「まだ中に幸村が……」

「何だと!?」

真田が割れた窓ガラスの奥に目を凝らすと、地面に接している右側の窓ガラスの上に幸村が倒れていた。

だが気を失っているのか呼び掛けても返答がない。

「まずいぞ。早く救出しないとガソリンが漏れているかもしれない!」

「俺が中に入る!蓮二、柳生を連れて下がっていろ!」

真田がバスの中へ入って行くと、柳と仁王は負傷した柳生を連れてバスから離れた。

しばらくして真田がぐったりした幸村を抱えてバスの外に転がり出た。

ジャッカルと赤也が手を貸しながらバスから離れると、独特の臭いが鼻をついた。

「離れろ!」

柳が叫んで後ろを振り返った次の瞬間、漏れ出したガソリンに引火したのか、大きな爆発が起こってバスは炎に呑まれた。

「皆、大丈夫か!?」

「ああ!」

「こっちも大丈夫だ!けどバスの運転手は?」

「幸村の他には誰もいなかった。もしかしたら崖の方に飛ばされたのかもしれん」

「そんな……」

「とにかくここにいるのは危険だ。もう少し離れよう」

柳の指示に従い、燃えたバスから距離を取って草むらの近くに腰を下ろすと、気絶していた幸村が意識を取り戻した。

幸村は右足を負傷していたが命に別状はなく、意識もはっきりしていた。

だがやはり運転手については何もわからず、携帯電話などが入っていた荷物もバスの中に置き去りになってしまった。

「なあ本当に何が起きたんだ?やっぱり事故なのか?」

「ああ。カーブを曲がった直後、前方から白いトラックが猛スピードで突っ込んで来たんだ」

「それを避けようとしてガードレールにぶつかり、その衝撃で横転したみたいだけど……ぶつかって来たトラックはそのまま走り去って行ったよ」

「何だよそれ、当て逃げってレベルじゃねえぞ」

「これからどうする?」

「どうするも何も、こういう時はやっぱり110番だろ。それと救急車も呼んだ方がいんじゃねえか?」

「誰か、電話持ってる?」

「いや、俺のはバスの中だ」

「俺も」

お互いの顔を見回してユキ達は深いため息をついた。

後はもう帰るだけで他に予定もなかった為、皆、携帯電話をバックの中にしまっていたようだ。

当然そのバックは燃えたバスの中だろう。

使えるとは思えないし、またいつ爆発するかわからないバスに近づくのは危険過ぎる。

どうすべきか途方に暮れたように考え込んでいると、ぽたりと肩に滴が触れた。

「雨……?」

「とうとう降って来やがったか」

ぽたり、ぽたりと空から滴が零れ落ちる。

それは徐々に大きくなり、やがて大粒の雨へと変わっていった。

一行は慌てて森に入り大きな木の下に避難するが、それでどうにかなる雨量ではなかった。

「災難続きだな。どうする?こりゃしばらく止みそうにないぜい」

「今日は夜から雨だって言ってたけど、こんなに降るなんて聞いてないぞ」

「愚痴を言っても仕方がない。我慢するしかないだろう」

「でも幸村君と柳生君が……」

「確かにこのままではまずい。どこか雨宿りできる場所はないか?」

「つっても合宿所は遠いし、バスの運転手もいないんじゃどうしようもないぜ」

「参謀、地図は?」

「バスの中だ」

「くっそー……マジで降って来やがった」

車が通り掛かれば助けを求める事もできるのだが、この時間ではそれも望めないだろう。

歩いて山を下りるにしてもまだかなり距離がある。

赤也達はともかく、体の弱いユキや負傷した幸村と柳生は厳しいだろう。

雨で体温が奪われているし、動けば出血も多くなる。

「そう言えば……」

ふと思い出したように幸村が口を開いた。

「合宿所を出る前に聞いたんだけど、この辺りは避暑地として有名らしい」

「ああ。それなら知っているが……」

「北にある川の向こうにロッジがあるって聞いたんだけど、それってこの辺りじゃないかな?」

「川って……少し前に通り過ぎたアレか?」

「でも方角がわかんねえぞ」

「こっちの崖になってる方が南のはずだ。だから北は……」

そう言って柳が森の方を見上げると、小高い丘の上に建物が見えた。

雨で視界が悪いが、どうやらあれがロッジのようだ。

「あれか……だいぶ距離あるぜ」

「でもこのままここにいても仕方ないだろ」

「ロッジに行けば誰かいるかもしれませんね」

「電話もあるかもな」

話し合った末に、一行は丘の上にあるロッジへ向かう事にした。

山を下りるよりは近いがしばらく歩く必要がある。

負傷した幸村と柳生に、真田と仁王がそれぞれ肩を貸して一行は現場を後にした。


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