今でこそ、俺達の級友である尾浜勘右衛門と鉢屋三郎は、表情豊かに喜怒哀楽を示している。しかし彼等は一年の頃、人を食ったか、あるいは小馬鹿にしているかというような、そんな笑みを常に浮かべている子供であった。

神様とやらも底意地が悪い。なまじ他より優秀であった上、さらに人を信頼しにくい性質が重なっていたのがいけなかった。友人や同級生、酷いときには一つ二つ上級生にすら、悪働きを行っていた。

彼等二人を捕らえることは、四から上の学年の生徒か、教師でなければ儘ならなかった。



「かんちゃん、わるいことしたら、だめだろ」

「ん」

「まえもせんせいに、おこられたじゃないか」

「へへー」



そして怒られて、しかし全く反省はしていない二人を引き取るのは、俺と、雷蔵と八左ヱ門の役目だった。

勘右衛門は俺が引き取って、三郎は二人が引き取った。手を引いて、部屋に戻って見張っていて、しばらくしたらまた逃げられるの繰り返し。

そんな二人でも、学級委員長を辞めさせられずに任されていたのは、常に一歩引いた視点で、物事を見ることができる資質があったからであり。

また、仲間の事を、何においても真っ先に守ろうとする潜在意識を買われたからであった。





俺と勘右衛門で町まで出かけ、遣いを終えて戻るだけとなった忍務の帰り道。

子供二人だからと思ったのだろう、野伏せりに襲われたのはその時だった。

数は、片手で数えて指が余る程度だったが、俺は一年で、季節は秋。い組だったから、ろくに実習の経験もなく、俺の足は完全にすくんでしまっていた。

荷を寄越せと言われた。しかし勘右衛門の腕に抱えられているそれを渡してしまったら、忍務は失敗になる。荷は文箱で、学園長から出された手紙の返事が入っているのに。

そう思っていた、その途端。

勘右衛門は俺の腕に文箱を押し付け、同時に、懐から苦無を引き抜いていた。

文箱を持っていた手で、腰から棒手裏剣を引き抜いて振り向き様に投げる。そのまま跳躍して俺の前にいた奴の首を掻き切った。





「や、さんざんだったねえ」

「………」

「しのびなら、にげることをかんがえろって、おこられちゃったし」



夜。

勘右衛門が応戦してすぐに到着した先生方に助けられた俺達。罰として夕飯も風呂もなく、井戸で顔や手足を洗うのもそこそこに、部屋に戻ってきていた。



「ふろくらいはさ、はいらせてほしかったよねー」

「…………て…」

「?」

「―――――ど、して!!」

「!」



笑いながら布団をしく勘右衛門。思わず俺は、怒鳴り付けていた。



「なんで、あんなむちゃ、したんだ!!」

「……え…」

「けが、した、ら…どうするの!!」



敷かれた布団の上に胸元を掴んで押し倒し、馬乗りになって叫びつづける。人が起きてくるかもしれないとかは、考えていなかった。



「だって、おれ…」

「なに!!」

「お、れ……」



睨みつけながら言う。勘右衛門はもともと丸い瞳をさらにまんまるに見開いた。しかも、じわ、と涙が浮かぶ。

勘右衛門の涙を見たのは、その時が始めてだった。



「おれ、へ、すけ、まもらないとって」

「!?」

「がっきゅ、いいんちょ、だもん……へーすけ、だいじだもん…」



ぽろぽろ。

涙をこぼす勘右衛門を見て、さっきまでの、否、今までの態度は全て、怖いと思う気持ちからの強がりだと気が付いた。

強がり、だった。



「……かんちゃん」

「うー…」



口をへの字に曲げて、泣くのを止めようとしながらこっちを見てくる勘右衛門。そういえば、名前呼ばれたのもそのときが初めてなんじゃないだろうかと思う。



「……じゃあおれが、つよくなったらいいんだ」

「………え?」

「かんちゃんを、まもれるようになったらいいんだな」

「へっ?」



じいっと見つめて言えば、目を白黒させたのち、勘右衛門の顔はボンッと音を立てて赤くなった。真っ赤。

うん、もういいや。分かった。

かわいい。



「や、やだ!おれのほうがつよいの!へいすけ、どいて!」

「いや」

「わっ、やめ、はなしてぇ!」

「騒々しい!!さっきの叫び声といい何事だ!!」



およそ忍らしくない足音をたてて、誰かが部屋まで走ってきた。声で木下鉄丸先生だと分かるけど。

バシン、と戸が開けられる。



「きのしたせんせえぇ!!たすけて!!」

「ぎゅーっ」

「きゃああ!!」



部屋の中では、俺が勘右衛門をぎゅうぎゅう抱きしめていて、勘右衛門はそれから逃れようと必死。本気の照れで。

しかしそこは木下先生。勘右衛門と三郎が、中々打ち解けようとしないのを心配していた一番の人。



「よくやった久々知!!もっとやってやれ!!」

「はいせんせい!」

「きゃああああぁやああああ!!」

「私も交ざろう!!ははは!!」



ちなみにこの騒動、俺と勘右衛門を可哀相に思った食堂のおばちゃんが、おにぎりを持ってきてくれて、先生と俺が説教されるまで続いた。

似たようなことが五ろでもあり、三郎達は今のようになったという。



「勘ちゃんかーわいーい」

「兵助どいてくれよう…お団子食べにくいから」

「かーわーいーいー」

「勘ちゃんも三郎も似た者同士何だよね、なんだかんだいってさ」

「何をいうか、私がこのちんちくりんと似てるなんて」

「似てるよね」

「似てるな」

「おい皆ちょっと見てくれー!!マムシのシロガネが脱皮してこんなでっかい抜け殻作りやがった!!」



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