おれ、尾浜勘右衛門の同室者である久々知兵助には、多分好きな奴がいる。と思う。

何故そう思うかというと、彼は昔から不思議な思考回路を持っている節があり、常人とは異なる趣味嗜好を持っていたりするのだが(主だったところでは豆腐)、ここの所、目に見えてそわそわしていたり、やたら何かに蹴躓いたり、終いには真っ赤になっていたりするのである。これは恋だろう。多分。と結論付けたわけだ。おれ鋭い!…なんか時々胸が痛いが、死ぬほどでもないので気にしないに限る。

話を戻そう。身だしなみにも気を付けるようになったようで、もともとの顔の良さも相まって、見た目めちゃくちゃモテ野郎になっている。一年のころ、上に白の格子柄、下に黒の格子柄の私服を着て、物凄くダサい服装になっていたやつと同一人物とは思えない。あの服装は五年い組の語り草になっていた。

それはおいといて。その相手についてだけど、何とか特定しようとして、おれは一ヶ月ほど頑張ってみた。そしてその成果として、兵助の好きな奴は、どうやら同性らしいということまで突き止めた。とどのつまり、うちのクラスの、顔良し頭良し性格良しの優良物件の心を射止めてしまったのは、男だということだ。残念なことに、この室町という時代、男同士では未来の日ノ本に子孫の貢献は期待できない。しかし人の色恋に損得は関係ないのである。どこかの誰かが言っていた。

おれは都合の良いことに、同性同士の恋愛に偏見なんて野暮なものは持っていないので、同室かつ同クラの久々知兵助くんの気持ちを応援に加えて協力してやろうと思う。節介にならないといいなあ、とも思う。……む、また胸が痛い。昨日の晩御飯の魚の小骨でも刺さっているのだろうか。なんてしつこい小骨だ。断じて許さん。

さて、ここで問題となるのが、相手はどこのどいつなんだろうってことだ。兵助の交友関係は、ありがたいことにそんなに広くない。とても仲のいい友達は数えるほどだし、クラス関係、あとは委員会関係といった所かな。豆腐>売り手という理由と、豆腐屋さんで作ったものより兵助が作ったやつのほうが美味しいって理由から、豆腐屋さんは除外している。

おれの勘だけど。五年ろ組の三人の誰かなんじゃなかろうか。ちょくちょく部屋に訪ねていっては楽しそうに話しているし。おれの中で一番の有力候補である。

さっきも話した通り、兵助のセンスはここの所うなぎ上りなんだけど、それは三郎の指南の賜物であったりする。あれ着てみろこれ着てみろ、こうしろああしろ、この色はこの柄とうんぬんかんぬん。いろんな人に変装できるよう、三郎はいろんな服を持っているし、研究もしてるらしい。兵助は頭いいからすぐ覚えてた。

「っ、勘右衛門!」
「?ああ兵助、おかえりー」

そんなこと言ってたら、本人が帰ってきてしまった。ここはおれ達の部屋である。今日は休日で、鍛錬もやり終えたので休憩中だったりする。兵助は片手に本、片手にはお盆っていう不思議な恰好だった。また図書室で借りてきたのかな、なんて思う。

兵助は最近よく本を借りてきている。種類問わず借りてきては読みふけっているようで、成績もすこぶる良いのに雑学もすさまじいことになっていたりする。お前はどこをめざしているんだ兵助?違った、そんなことが言いたいんじゃない。そう、兵助はよく図書室に行っているが、雷蔵に会いに行くためなんじゃなかろうかと思う。『兵助の好きな奴は五年ろ組説』に基づく第二候補である。……うーまた胸が痛い。今日はご飯噛まずに飲み込もう。

「あのなっ」
「うん?」
「こ、これ、今日作ってみたんだけど、その…」
「あっお菓子?もらっていいの?」

おずおず、というのがぴったりな感じで、兵助はお盆を差し出してきた。なんだろうかと思ったけど、すぐぴんと来た。いいにおいがする。お腹空いてたから嬉しい。かかっていた覆いを取ると、お盆にはおまんじゅうが乗っていた。ふむふむ、今日はおまんじゅうなのか。毎日とは言わないまでも、兵助はこうやって料理にもいそしんでいる。豆腐作りが筆頭だけど、最近はお菓子にも手を出している。ここでもしっかり、豆腐菓子ではあるのだけれど。

この兵助の行動からは、第三候補の存在が連想できる。八左ヱ門である。この前何がどうなったか好きな奴の話になった時に、ハチは「料理得意なやつとか嬉しくないか?手作りのものとか食わしてくれたらさあ」とか言っていた。な、どう思うよ、って聞かれたから、「そうだなーお腹空いてる時とかいいよね」って言っといた。庭を見ながら話していたんだけど、曲がり角の方から、ガッタンドタバタバタバタバタバタガッシャーン!!!って音がしていたから、兵助は聞いていたんだと思う。ハチがすごい顔をしていたから、何の音だろうねって援護しておいた。ないすふぉろーおれ。……うああ、魚の骨がしつこすぎる。末代までたたってやる。今日の晩御飯はうどんがいいなあ。骨ないし。

「お、美味しいか?」
「うむ、む、うん、美味しいよ!」

…しかし兵助のやつ、この菓子全然ハチにやってなくないか?あげているのを見たことないし、さらに言うなら三郎と二人で出かけているのも見たことないし、もっと言えば雷蔵と勉強会とかしてるのも見たことない。おれで予行演習するのも別にかまわないけど、いい加減行動しないと相手も勘違いするんじゃなかろうか?おれも誰かわかった方が応援しやすいし。

これは焚き付けてやるべきなんじゃないかな?同室のよしみというやつで。お節介かもしれないが親切心だから神様も仏様も許してくれるだろう。よし。

「あのさ、兵助」
「っ、な、何!?」

おおう、相変わらずすごい目力だ。なんでそんな鋭い回れ右を炸裂させているんだ。勢いよすぎて怖い。しかし怯むわけにはいくまい!

「あのな、好きなら好きって言いなよ」
「…え!!?」

おっと、直球過ぎただろうか。言葉の選択間違えた感がある。でも兵助鈍いところあるし、このくらいでもいい気もする。うん、無問題、無問題。

おろおろしている兵助。非常にほほえましい。しかしおれはお前のためにはっきり言うぞ!

「えっ、あの、え?」
「言っちゃって大丈夫だよ、兵助だもの」

あの三人のことだ、大体わかる。兵助が好きって言っても受け止める良い男達だ。さあ行ってこい、この残りの豆腐のおまんじゅうを持って!残りで悪いけど!

「い、い、のか」
「大丈夫!自信持って!」

ていうか、勘右衛門、知って、とかなんとか言ってる兵助に、うんと肯定するおれ。そりゃああんな恋の症状見たらわかるだろ。隠してる気あったのかむしろ。

そんなこと考えてたら、兵助が目の前にいた。近くない?ん?どうしたんだ?あ、肩つかまれた。何事?

「勘右衛門!!!」
「?」

首をかしげるおれ。兵助は、かわいっ…!とかなんとか言いかけたけど、首をぶんぶん振って、また顔が近くなった。だから近くない。一寸ないよ?こんなとこ見られたら勘違いされ……

「…すきだ!!!いや、好きです!」

……はい?

ぽかんとするおれ。気づかず兵助は続ける。

「あいしてr」
「ちょ、ちょちょちちょ待て待て待てまって」
「つきあってくだs」
「待てって言ってるだろーが!!!」

顔を真っ赤にしている兵助。つられて真っ赤になるおれ。何この状況想定外!兵助顔近すぎるよ!あと肩つかんでる手が震えすぎだよ!いい男が台無しだよ!?

屋根裏から、「言った…」「言ったね…」「とうとう言った…」「ざわ…ざわ…」とか聞こえてくる。降りて来い。今すぐこの状況を説明しろ。




自称傍観者の観察














「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -