―――――かなしい。 時は夜、周りは闇。その世界の中で、木の根元に座り込んだ少年は、独り、そんなことを考えていました。 まあ、正しくは、というよりも、肉体的には、独りではありませんでした。少年の目線の見える先には、彼の仲間が四人、疾うに冷たくなって転がっていましたから。 かなしい。つらい。さみしい。 そんな気持ちが、胸をぐるぐると巡りました。 何も、間違いは無かった筈でした。今回の忍務は自分達の力なら、間違いなくやり仰せられる、筈でした。事前の情報では。 全く知らなかったものがありました。 それは、自分達の力では、対応できないことでした。 一人、また一人と友が倒れ、最後に、想い人が倒れました。彼は独りになりました。 い組で、その長だった彼は、とても優秀でありました。その為に、他よりやや長い間、生き残ることができてしまったのでした。 その、やや長く生き残れた時間で、彼は大切な人達が辱められることがないように、全員を連れて、ここまで逃げおおせてきたのでした。 まだ意識のあった、ろの組の長の少年は、自分達を置いて行けと言いました。けれど、少年は聞き入れませんでした。 十六年、世界から閉じ込められてきた少年は、四人といた時間が、誰よりも短かった。ですから、最後の最後まで、共に居たいと願っていました。皆を無理にでも連れて逃げたのは、それ故でした。 ですが、その行動の性で、彼は負傷してしまっていました。 もう、自分も永くはないだろう。 皆のところに、もうすぐいけるだろうと。 少年は、目を閉じてしまおうとしました。 “―――――童” 「?」 何処からともなく、声がします。少年は瞳だけを動かして、声の主を探しました。 簡単に見付かりました。むしろ、目さえ見えたなら、赤子にも見付かるものでした。 いつの間にやら、少年の目の前に立っていたそれ。ヒトの姿をしていましたが、ヒトではないことは、辺りが暗闇なのに、薄ぼんやりと光っていることで分かりました。 「………だれ?」 少年は眉間に皺を寄せ、じろりと、その誰かを睨みつけました。追っ手ならば、倒さなければ。仲間を渡す訳には。 “死にかけているのかい” 「……だったら、なに」 追っ手ではない様でした。あの世の迎えというやつだろうか。と、少年は考えます。 ヒトではない誰かは、少年をじろじろと興味深そうに見てきました。 “童、生きたいかね” 「………たすかるの、おれ」 多分、身体の血の半分は抜けています。尊敬する師から、失って生きられる限界量は教わっていました。とっくに越えています。 “お前だけではないよ、これらもだ” 「!」 なんと馬鹿なことを!と彼は怒りました。彼等がもう事切れていることは、皮肉にも彼が確認して、最もよく知っているのです。 切り掛かりたいところですが、もう身体は動きませんでした。ぎらぎらと、目だけで誰かを睨みます。 “お前がまた、世界に囚われるなら、時間と引き換えに、彼等は還ってくるだろうよ” 「…………ほんとう、に?」 “嘘ではないわな。ただ、元の姿とは限らないがね、童” 何になるのかと聞けば、誰かは、自分と同じ様になると言いました。つまり、ヒトでは無くなると。 先程よりもぼんやりし始めた頭で、少年は考えます。 「……それでいいや、たすけてよ」 “ほお、早いな、決断が” 「あ、んまり、じかん、ないし…あんたは、まともそう」 “そうか” では、助けよう。 言って、誰かは、少年に掌を向けました。 少年は誰かに問い掛けます。 「ねえ、なんで、たすけようと、おもった、の?」 霞む視界の中、誰かが笑ったような気配がします。 “―――――そうさなあ” お前が、死んだ倅に、よう似とるからかのお。 齢千六百歳、西国一の化け狸。その言葉を聞きながら、少年、尾浜勘右衛門は、ふ、と溜息を吐いて瞼を閉じました。 次に目が醒めるとき、また四人に逢えるよう、ただそれだけを願っていました。 せをはやみ いわにせかるる たきかわの われてもすゑに あはむとそおもふ → |